というそのヨシヲを演じているのが「倉悠貴」というデビューしたばかりの新人というから驚き。2年程前、古着屋でアルバイトをしている時にスカウトされて芸能界入りし、それまで芝居も芸能も無縁だったとか。
2019年、ドラマ『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)で俳優デビューすると、2020年には池田エライザ初監督『夏、至るころ』でなんと映画初主演。そして2月に公開されたばかりのホラー映画『樹海村』では主人公の恋人役を演じ、今後も主演を含め映画数本が公開予定と、引っ張りだこの「金のタマゴ」です。
チンピラの役というと、ドスが効いたセリフ回しでヤサぐれた感じを演技で出すのが手っ取り早いはず。しかし、ヨシヲはどこか上品で孤独な感じも漂い、姉を前にぺらぺらと平気で嘘もつき、ちょっと一筋縄ではいかない二重の人格。背後に闇を背負うヨシヲを演じる巧さを感じました。
そんな希有な存在感を持つ新人を登用しただけではありません。
今週の『おちょやん』がまさしく「ターニングポイント」と言えるのは、千代にも大きな転換が訪れたからです。大坂弁でまくしたて強気でガンガン言い返して生き抜いてきた千代とは、別人の千代が現れた。
千代にとって弟はアキレス腱でした。弟に「今さら、姉ぶるな」と言われ、「会いたいとも何とも思えんかった」と拒絶された時、千代が垣間見せた決定的な「弱さ」。人としてのギリギリの限界点。どうしようもない哀しさ。生きていくことすら挫折しそうな。
「ヨシヲはうちのたった一人の弟なんや…ヨシヲのためだけやあらへん。このままやったら、うちもあかんようなってしまう」という千代のセリフはぐさっと刺さりました。
これまで杉咲さん演じる千代という人物はどこか一本調子で、弱さや繊細さが希薄で複雑さが足りない、と私自身コラムで指摘しましたが、強気すぎる千代に感情移入できなかった視聴者も、迷い悩む千代の人間ドラマにグッと引き込まれていきそうです。