この時期をどう捉えたら、不安に流されずにすむだろうか。望んだわけではないのに、コロナによって無理やり、人生の「再起動」をかけられているようなものだ。けれど、強制的にであれ、コロナがゼロ地点を見せてくれているのだと考えれば、ものの見方も変わってくる。
コロナによって、失ったものがあったとしても、ゼロ地点さえわかっていれば、すべて失ったわけではないことに気付く。
ステイ・ホームは“生まれ変わり”の時間
ぼく自身も、生活が一変した。年間100本を超す講演がゼロになった。こんなに長い時間、家で過ごすことも、人生で初めてだった。
まったく不安がないかというと嘘になる。けれど、そんなときに、「ゼロからゼロへ」という考えが、心の支えになった。どうせ死ぬときにはゼロになるのだから、何も恐れることはないのだ。
この1年、ぼくは八ヶ岳を見ながら、スクワットやかかと落とし、ドローイン歩行など運動を続けてきた。冬には毎朝、起きるとすぐにスキー場へ直行し、3キロのダウンヒルをノンストップで3本滑った。それから家に戻って、13本の連載の原稿書きをしている。そんな修行のような生活を黙々と続けながら、世界がコロナに打ち勝った時、どんな新しい自分になってやろうか、密かに情熱を燃やしている。
【プロフィール】
鎌田實(かまた・みのる)/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2021年4月30日号