たしかに、『Presence I~』では、ラッパーKID FRESINOによる英語主体のラップの合間を縫うように、松が「ひとり語り」のようなボーカルをかぶせ、高度なリズム感を披露している。さらに、松尾氏は彼女の「歌声」にも注目する。
「松さんの歌声の魅力は、“人懐っこさを十分に有しながらも湿潤すぎない”という絶妙なバランスの上に成り立っています。それが先ほど述べた『タイム感』のセンスと相まって、“オールマイティーなボーカリスト”という印象を作っています。
また、デビュー時よりも中低音部の響きの豊かさが増しているのも、昨今のヒップホップやR&Bのリズムからの影響が顕著なポップミュージックの世界的な潮流とも相性が良い。ただし、テーマ曲の『Presence~』はR&Bの色合いが強いですが、松さんのボーカルはR&Bやゴスペル的な歌唱とは一線を画しており、それが担保となり“マニアックではない、開かれたポップミュージック”になっています。
たとえると、“和服のこなれた着こなしは言うまでもないが、一方でハイブランドのドレスもよく似合う”といったところでしょうか」
松たか子といえば、ディズニー映画『アナと雪の女王』でエルサ役の声優を務め、2020年のアカデミー賞授賞式で世界9か国のエルサ役声優とともに歌を披露したことも記憶に新しい。ドレス姿で堂々と歌う松の歌声は海外リスナーからも注目された。松尾氏は、『Presence~』が世界から評価される可能性があると続ける。
「同曲を作曲したSTUTSさんは、美しいメロディやメロウな音世界を探求している音楽家です。ブラックミュージック的なビート+メロウなサウンドと、メロディ+(涼しげな)松さんのボーカルが合わさり、昨今世界から注目される『シティポップ』といえる仕上がりになっています」