JR東日本は新宿駅・東京駅・立川駅・舞浜駅など、管内18駅で4月22日からベビーカーのレンタルサービスを開始した。これだけを見ると、新型コロナウイルスの感染拡大で減少している通勤・通学利用者の穴を埋めるための需要喚起策のようにも思えるが、同サービスはコロナが感染拡大する以前の2018年から企画・検討されていた。
「サービス開始にあたっては、ベビーカーのレンタル需要があるのかを探るべく、2018年に立川駅でベビーカーを無料レンタルするトライアルを実施しました。立川駅でのトライアルは事前に告知しなかったのですが、多くの利用を確認できました。それらの結果を踏まえ、JR東日本は駅ごとの需要を精査し、設置場所を確保できるスペースのある駅も調べました。それで、手始めに首都圏の18駅でベビーカーレンタルサービスを開始することになったのです」(同)
今回のサービスを始める前から、JR東日本は鉄道事業者という枠を超えたレベルで子育て支援に力を入れてきた。
JR東日本は2004年に埼京線を子育て応援路線と位置づける。そして、駅構内や駅ビル、線路沿いに保育所を積極的に開設するようになった。
埼京線は東京・大崎駅と埼玉県・大宮駅を結ぶ路線で、通勤の大動脈。その線路は、東北新幹線や上越新幹線の線路と並ぶように敷設されている。そして、東北・上越新幹線は建設時に周辺住民からの反対が強く、JRは周辺住民に配慮して線路脇に約20メートル幅の都市施設帯という緩衝地帯を設けた。
その都市施設帯はJR東日本の所有地だが、JR東日本の一存で用途を決めることはできない。都市施設帯に何かの施設をつくる際は、地元の自治体と協議することが決められている。長らく、都市施設帯は未使用地となっていた。
埼京線の沿線には、東京のベッドタウンとして発展する戸田市がある。戸田市は若いファミリー層が増えていたこともあり、保育所の整備が焦眉の急になっていた。とはいえ、保育所を整備するためには敷地を確保しなければならない。
東京に隣接する戸田市は共働き世帯が多く、父母ともに東京へ通勤していることは珍しくない。がむしゃらに保育所を整備しても意味がない。市街地から離れた場所ではなく、通勤・退勤の途中に子供を預けられる。そんな保育所を開設する必要があった。埼京線の駅前は、うってつけの場所ともいえる。
こうした経緯から、戸田市はJR東日本へ都市施設帯を保育所の用地として活用できないかと打診。戸田市の要請を受け、JR東日本は都市施設帯に保育所を開設した。以降、埼京線の沿線には保育所の開設が相次いでいく。
JR東日本が子育て世帯へのサービス拡充に力を入れるのは、こうした経緯がある。今回始めたベビーカーのレンタルサービスも同様の流れを汲んでいると言っていい。