「再充電の速さ」が付加価値を決める

 車格、性能、装備の概要からみて、アリアの狙いはズバリ、バジェット(お買い得)プレミアムだ。

 速さ、航続性能、装備はアウディ、BMW、メルセデスベンツ、ジャガーなどのコンパクトSUVに近いものだが、価格はそれらより安い。昭和時代に日本車が小型車にとどまらず、ある程度付加価値の高いクラスでも存在感を持ち始めた頃に日本メーカーが取った懐かしの戦術といえる。

 近年ではボルボが似た方法でブランド価値向上に成功している。日産は前社長の西川廣人氏が安物商売はもう限界だと語り、高級車ブランド「インフィニティ」だけでなく、日産自身もより高価格帯で勝負する戦略への転換を図っている。その道は果てしなく険しいが、アリアはそのプランの橋頭保を築くための役割も担っていると言える。

 だが、早く、1充電の走行距離が長く、装備が充実しているだけではハイクラスのBEVとしては通用しない。このクラスのオーナーは長距離、高負荷での走行が多く、バッテリーの電力を使い果たしたときのリチャージ(再充電)の速さが付加価値を決める重要な要素となっている。

 目下、世界で充電が速いBEVの代表格はテスラだ。筆者が昨年、ミッドサイズセダン「モデル3」で東京から本土最西端、長崎の神崎鼻までドライブしたとき、テスラ独自の急速充電器「テスラ・スーパーチャージャー」でリチャージしてみたところ、30分で340km前後、40分で400km超を走れるだけの電力を補充できた。受電電力は最高で136kWと、驚異的な数値であった。

強敵テスラ。「動力性能は驚異的で充電も速いが、品質では日産が上回るだろう」と井元氏。

強敵テスラ。「動力性能は驚異的で充電も速いが、品質では日産が上回るだろう」と井元氏。

 アリアはどうか。ある日産関係者によれば、最高130kW程度での受電が可能であるという。仮に最高値で真っすぐ充電できるとするならば、30分で130×0.5=65kWhもの電力量を確保できることになる。これはあくまで理論値であって、バッテリーは充電量が回復するにつれて受電電力が下がっていくのでこの数値にはならないが、それでもかなり期待ができそうである。

 今日、この受け入れ性能をフルに発揮できる充電器は製品としては完成しているが、まだ配備はほとんどなされていない。増えつつあるのは最大電流200アンペアの最高出力90kW充電器だ。

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