2020年4月、大阪府の吉村洋文知事は休業要請に応じなかったパチンコ店の店舗名を公表した(時事通信フォト)
特定顧客に支えられている業界は強い。気に入らないからと外野がパチンコ離れだ、オワコンだと喧伝しても20兆円産業であることは変わらない(レジャー白書2020)。観光業界の倍近く、公営ギャンブルの倍以上の市場規模であり、余暇産業の市場規模における日本一の業界がパチンコ・パチスロ産業だ。少子化や娯楽の多様化、規制の強化などで業界の将来性が不明瞭なのは事実で、最近はコロナより旧規則機問題のほうが痛く、西口さんによれば茨城県の県遊協など揉めにもめたらしいが、この辺の業界話は本旨でないため割愛する。
「何でもかんでもいいなりになってはいけないんです。協力はしますが、いいなりにはならない。自分たちの身は自分たちで守るというのは商売の鉄則です。パチンコ批判をしている人も、自分の食い扶持は守るでしょう。そもそも、彼らの言うことを聞くメリットもありません」
上は言うこと聞く相手にしか言ってこない
個人的な話としてのエクスキューズはついているが、西口さんの主張は一貫している。仕事として、顧客だけを向く。客商売というのは因果なもので、つい「これからお客になってくれれば」という気持ちで誰にもいい顔をしてしまうが、高級店や専門店、娯楽に関しては既存客を大事にしたほうが良い。それで駄目なら、ジャンルにおける歴史上ごく当たり前の”自然衰退”であり、別に客でもない通りすがりのうるさい外野を取り込めなかったせいではない。裾野を広げるのは結構だが、そのために既存客を置き去りにしては本末転倒だ。ましてや個々の現場レベルで一から十まで背負い込むものでもないだろう。
「そもそもホールはクラスターを出していません。1年以上のこの努力は、十分エビデンスとなっているでしょう。エビデンスがあるから、満員電車は問題ないと言っているはずです。問題ないなら営業します。バカ正直に言うことを聞いて、映画館みたいにはなりたくないですからね。鬼滅(『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒット中だってクラスターなんか発生していないのに」
そう、国内累計来場者数2890万人超、興行収入400億円突破の作品を上映してもクラスターは発生しなかった。オーストラリアの総人口より多い来場者数が日本中の映画館に入れ代わり立ち代わり押し寄せてクラスターなし。それなのに大多数の映画館はゴールデンウィークを潰してまで要請に従った。エビデンスは満たしていたはずなのに。
「かわいそうですよ。パチンコ店と映画館というのは古くから庶民の娯楽でした。私だって思い入れは強い」
娯楽という共通点以上に、かつてはパチンコ店が映画館も経営していることがあった。いまでも一部の名画座や地方都市に行くと総合レジャー企業として映画館を運営するホールがある。そもそも高度成長期に乱立したパチンコ店の中にはブーム崩壊後のボウリング場やテレビに押された映画館からの鞍替え組も多い。
「何でも言うこと聞くと思われたら駄目です。上は言うこと聞く相手にしか言ってこない。学校と同じですよ。学校と違うのは、言うこと聞いてもいいことはないってことですね」