ライバルのTBS『日曜劇場』も救命救急
これほど前倒しの撮影が可能なのは、手堅いジャンルを選んでいるから。月9ドラマは今から約3年前の2018年夏ドラマから、刑事事件、医療、リーガルという手堅い3ジャンルのドラマを10作連続で放送してきました。
また、この3ジャンルは、「基本的に社会の動きを反映させる必要性が薄いから、早めに撮影しても問題ない」「1話完結型のため、撮影後の変更にも対応しやすい」というメリットも見逃せません。リスクを避けて手堅く視聴率を確保できる上に、早く撮影しても支障がないため、「先行放送の優位性を得よう」という戦略が成立するのです。
ちなみに現在放送中の『イチケイのカラス』も4月5日に第1話が放送されましたが、これもゴールデン・プライム帯の春ドラマで最速のスタートでした。「リーガルという手堅いジャンルを選びつつ、どこよりも早く撮って早く放送する」という堅守速攻を思わせる戦略だったのです。
話を『ナイト・ドクター』に戻すと、夏ドラマには同じ救命救急を描く『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)があり、しかも連ドラ界のトップを走り続ける『日曜劇場』の作品。「ジャンルがかぶってしまった強力なライバルに先んじてスタートすることで勝機を見い出したい」ようにも見えます。
今回の『ナイト・ドクター』がうまくいけば、月9ドラマは今後も堅守速攻の戦略を続けていくのではないでしょうか。ただ、医療、刑事、リーガルという手堅いジャンルの作品は、「飽きられはじめている」という声もあるだけに、新たな要素を加え、質を高めていく努力が求められるでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。