韓国ドラマを見て脱北を決心する人も
『愛の不時着』で、北朝鮮の若者が韓国ドラマにハマり人目を盗んで韓国ドラマを見るシーンがあるが、これも北朝鮮であるある光景だそう。セトミンの中には、脱北のきっかけを「韓国ドラマ」と答える人もいるほど、韓国ドラマの影響は強いようだ。では、インターネットがない北朝鮮で、どうやって韓国のドラマが見られるのか。
多くはUSBにデータファイルが入った状態で、中国から流れてくる。そして人から人へと伝わり、ドラマを通して韓国社会の様子や資本主義の思想が市民に広がっていく。そのため北朝鮮では法律が厳しく変えられている。
朝鮮日報によると、2020年12月、韓国ドラマを広めた人は最大死刑、ドラマを視聴した人は5年から15年の懲役に厳罰化されたという。厳しい監視の中、北朝鮮では韓国ドラマを愛するのも命懸けなのだ。
ドラマの台詞から北朝鮮で流行語が誕生!
このドラマで北朝鮮の人を演じる役者のセリフは北朝鮮語だ。そんなセリフの一つが北朝鮮でも流行語になっているらしい! それは、「ネガ ジャングンニミニ!」。直訳すると「お前は将軍様か?」。ジョンヒョクの部下が、わがままを言うユン・セリに対してちょとした冗談で「何様のつもりだよ!」と言った言葉だ。
北朝鮮の若者も、このセリフを仲間同士で「わがまま言うな」「偉そうにするな」という意味合いで使う流行語となった。ただ、この言葉が流行ったおかげで親たちは気が気でない。「将軍様」といえば故・金正日総書記のこと。子供たちが、何も考えずにこの言葉を発したらたいへん。保衛部の耳に入ったら、罪に問われるかもしれないからだ。
ちなみに、韓国語と北朝鮮語は文法がほぼ同じだが、使われる単語が違う。筆者が韓国で小学生の時は、韓国語の教科書に「北朝鮮語」のチャプターがあって、テストにも出た覚えがある。授業では、「北朝鮮には外来語がないため北朝鮮の言葉の方が純朝鮮語と言える」と教わった。今は多少の外来語が入っているらしいが、「タクシー」や「バス」など、韓国でも日本でも当たり前に使われている外来語が北朝鮮語では純朝鮮語に置き換えられている(日本語で「レコード」を「音盤」と言ったように)。韓国で日常では使わないが、意味は伝わるので、その言い回しが新鮮だったりする。
国や世代を越えたドラマの大きな力
多くの韓国人にとって北朝鮮は「一番近い国でありながらももっとも遠い国」。韓国と北朝鮮が別れて70年以上たった今、若い世代には「同じ悲しみを持つ民族同士」という意識も薄れてきている。私自身もそうだったかもしれない。『愛の不時着』を見る前は。
このドラマを見て、北朝鮮に住んでいる人々も「私たちと同じ人」と改めて強く感じた。とはいえ、日本でもこれほど愛される作品になるとは、正直想像していなかった。しかしある日、『愛の不時着』を見た日本人の友人から「早く韓国と北朝鮮が統一してほしい」という言葉を聞き、このドラマの大きな力に気づいた。
韓国でも最強のドラマ制作会社「STUDIO DRAGON」が制作し、最高峰のキャストやスタッフが集結したこのドラマ。それに加え、複雑な問題を身近な「愛」をベースに描いたことで、より多くの視聴者が感情移入し共感できたのだと思う。いろんな意味で素敵なドラマだ。
【プロフィール】Soozy/映像クリエーター。1988年、韓国生まれ。小さいころから日本が大好きで、高校卒業と同時に日本へ留学。2年間日本語学校に通い、慶応義塾大学環境情報学部入学。卒業後、映像制作の仕事に就く。ドラマの力で日韓の架け橋になれたらと発信中。Instagram:sooooozy12