“魔法の手”と“自己決定”に救われた
入院2日目の午前11時、カテーテル室に呼ばれた。循環器医、放射線技師、看護師……総勢20人ほどが待ち受けていた。すぐに静脈麻酔を打たれたので、その後のことは全く覚えていない。
カテーテルアブレーションとは、鼠径部の太い血管からカテーテルを入れて、心臓まで到達し、心房細動を起こしそうな心臓の筋肉を100か所以上焼灼する。
午後4時ごろに自分の部屋に戻ったようだが、これも覚えていなかった。夜の7時ごろから時々目が覚めた。夜中の12時近くになって、ようやく覚醒がしっかりしてきた。が、ここから、いろいろ気になることが出てきた。
まず、絶対安静で、自由が利かない。カテーテルを入れた鼠径部から出血すると厄介なことになるため、寝返りも打てない。背中の血流が滞り、筋肉も凝り固まってくる。動いてはいけないと思うと、余計に苦しい。
その時、救ってくれたのが看護師さんの“魔法の手”だった。鍋つかみのオバケみたいなものを腕まですっぽりはめて、背中をちょっと持ち上げた瞬間に、さっと差し込んでひと撫でする。たったこれだけなのに、ものすごく気持ちがいい。一瞬で血流が戻っていくのを感じた。
人の手の持つ力はすごい。心まで和らいでくる。このケアは、若くしてがんで亡くなった褥瘡予防の専門ナースにより、各病棟の看護師に広められた。彼女の思いを、みんなが受け継いでいる。
絶対安静ではあるが、ギャッジベッドを短時間、ほんの少しだけ起こすことが許された。これも看護師さんがちょうどいい角度で上半身を上げてくれた。うれしかったのは、「微調整はお好きなようにしてください」と調節器を手渡してくれたこと。自分で1度くらい上げたり、下げたりして調整した。結局、看護師さんが合わせてくれた角度とほとんど変わらないのだが、自分で決めた角度だと、納得ができる。自己決定ができるからこそ、絶対安静にも耐えられたと思う。
おむつの壁はなかなか超えられない
絶対安静ということは、当然トイレにも行けない。オシッコは、オチンチンにバルーンカテーテルを差し込んで、バッグに流すようになっている。けれど、ちょっとだけ上半身を動かすと、管が揺れた刺激でオシッコがしたくなる。そのたびに管が入っているから大丈夫、と自分に言い聞かせる。その繰り返しだった。
看護師さんにそのことを伝えると、管を太ももにテープで固定してくれた。それからは揺れなくなって、管の違和感はなくなった。
困ったのは、大便である。夜中に起きたとき、食事をしてもよいことになっていたが、食欲がなかったので、高タンパクのゼリーを食べた。高齢者のフレイル予防に置いているのだと思うが、これがけっこうおいしかった。だが、ゼリーを食べたら、大便がしたくなった。
おむつをつけているので、そこにしていいですよ、と看護師さんに言われたが、そう言われてもなかなかできるものではない。