「緊急事態宣言下なので、マスクをしてブースごとに仕切る形にするなど対策は取られていますが、自分を含めて、なんでこの時期に婚活してるんだ、とはお互いが思っているでしょうね(笑)。でも、命の危機だからこそ結婚したい、子供を残したいっていう本能なんじゃないかと思います。実際、パーティーはいろんなところでこっそり開催されていますし、クローズドのSNSコミュニティの中では、開催情報が飛び交っていますから」(山口さん)
もちろん、人が集まることを避けている、こんな時期に婚活パーティーをするなんてけしからん、という指摘はもっともな側面もある。山口さんが参加したパーティーも、人数は限られているとはいえ、狭い部屋に集められた十数人の男女が会話し続ける、という実態であることには変わりない。一次会の後にはお互い「お気に入り」ということでカップル成立と相成り、外に飲み直しに行った男女もいた。これらの行為が「リスクが高い」行動だと指摘されるのは当然にも思える。
だが、彼らにとって「出会いの機会」は不要不急ではなく今でなければ間に合わないことで、コロナ禍だろうと気にしていられない、というのも偽らざる本音だ。山口さんが続ける。
「コロナのせいで出会いがなくなった、というのは事実かもしれませんが、それに対して誰が保証してくれるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていきます。コロナは怖い、でもずっと一人で生き続けるのはもっと怖い。若いうちに遊びすぎたんでしょ、なんて言ってくる人もいますが、家族の介護があり、どうしても実家から離れられなかったんです。だから、本当に『今』しかないんです」(山口さん)
こうして「切実な人たち」が生み出されると、そこに群がるのは悪意を持った輩たちだ。都内のレストラン関係者が打ち明ける。
「婚活パーティーと称し、飲食店を借り上げてくれる業者がいて、コロナで瀕死の状態だった我々も喜んでいました。でも、開催されるパーティーの男性参加者の中には、どう見てもホストっぽい人がいたり、街でよく見かける風俗系のスカウトがいたり、およそ結婚相手を探しているとは思えない立ち居振る舞いの人が何人もいて、めちゃくちゃでした。何回かやっていただいたんですが、三回目には『前回のパーティーで騙された』と主催者に詰め寄る女性が何人もいました。お金は支払ってもらったので店への金銭的被害はありませんでしたが、女性の中にも、詐欺師みたいな人がいたらしいということで、店長が警察に話を聞かれたこともありました。業者自体が、まともじゃなかったんですよ」(都内のレストラン関係者)
コロナ対策のために三密を避けること、会食するとしても少人数で黙食を心がけることと言われるなか、お互いの人となりを短時間で知りたい婚活パーティーは、おおっぴらに参加するとは言いづらいイベントだ。法律に違反しているわけではないけれど、後ろ暗い気持ちがつきまとうときは、トラブルに遭っても人に打ち明けたり相談したりしづらい。その気持ちはごく当たり前のものだが、その結果、自分を守るための行動が鈍くなることにつけ込む人たちが出現するのだ。
人の心が弱る瞬間を狙う人たちにとって、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で制限が多くなっている今は、ビジネスチャンスだらけらしい。実際に今回、婚活パーティーでの体験を語ってくれた人たちは、真面目に切実に結婚を考えている人ばかりで、コロナ対策のことは頭をよぎっても、真剣な人たちを陥れる事業者たちが不届き者なのは間違いない。切実な人が集う場所だからこそ、さまざまな落とし穴がある、ということだけは、事実として頭の隅にでも置いて欲しいと思う。