同誌によれば、新たにネアンデルタール人の化石骨が発見されたのは、スペイン北部のアタプエルカにある洞窟で、化石骨の損傷状態を調べたところ、同じ洞窟に残されていたクマなど、冬眠する動物の状態と類似していた。
論文を執筆したのは古人類学者のフアン・ルイス・アルスアガ博士と、トラキア・デモクリトス大学(ギリシア)のアントニス・バルチオカス教授。化石骨には毎年数か月の間、成長が阻害されたような痕跡があり、厳しい寒さで食糧が手に入らない状況下、体脂肪の蓄えだけで生き延びた代謝状態を示しているというのが、2人の見解だった。
一方、2人の見解には反対意見も多く、結論を出すにはさらなる検証が必要とされている。
ネアンデルタール人の言語使用の可能性を指摘したのはオンライン雑誌『ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション』に発表された論文で、執筆したのは米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の進化学者ロルフ・クアム准教授らのチームである(『CNN.co.jp』3月3日付「ネアンデルタール人の聴覚を推定 言語使用の可能性も」)。
同研究チームはCTスキャンを使った分析に基づき、耳の構造の3次元モデルを作成。外耳道から鼓膜、耳小骨、鼓室など30以上の条件を検討し、音響エネルギーの伝わり方から、どの周波数帯の音がよく聞こえていたかを割り出すことで、コミュニケーションの方法を推定したという。
その結果、ネアンデルタール人に聞こえた周波数帯がそれ以前の祖先より広く、現代人とよく似ていたこと、人間の話す言語の音をほぼカバーしていたことがわかった。
つまり、言語によるコミュニケーションが発達していた可能性もあるというのだが、今回の研究に参加していない専門家からは、現代人のように複雑な言語体系を持っていたかどうかは聴覚や発声の仕組みではなく脳の働きによって決まるため、同チームのような研究から判断するのは難しいと、厳しい意見も寄せられている。
人類進化の道筋を全面的に解明するには、まだまだ多数のハードルを越えねばならないようである。
【プロフィール】
島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊に『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)がある。