彼女に「役づくり」はいらない
『ぼくらの七日間戦争』の2年後の1990年にドラマ『いつも誰かに恋してるッ!』(フジテレビ系)で大沢は再び、宮沢と共演している。
「その時も、りえちゃんがいると、すごく現場が和むんです。時間が押してスタッフがピリピリし始めても、りえちゃんがいるだけでその場の雰囲気が変わる。太陽のような存在でした。
泣いているりえちゃんを僕が背負って坂を歩くシーンがあったんですが、りえちゃんは撮影の直前までスタッフたちと和気藹々と喋っていたのに、本番が始まると僕の背中でシクシク泣き始める。すごいなぁ、本物の女優なんだなぁって感心しました」
『北の国から’95秘密』(フジテレビ系)では、東京から富良野に戻った純(吉岡秀隆)の恋人・小沼シュウを演じた。普段はあっけらかんとしているがセクシービデオに出演していた過去のある、たくましさと繊細さを併せ持つ女性という役どころだ。
同作をはじめ連続シリーズ(1981年)からスペシャルまで、およそ20年間にわたり監督を務めた杉田成道氏(現フジテレビ・エグゼクティブディレクター兼日本映画放送・取締役相談役、78)は宮沢を抜擢した経緯をこう語る。
「純の相手役の女の子はいつもオーディションで決めていました。でも、シュウ役だけは“宮沢さんしかあり得ない”と思って、倉本聰さんに推薦したんです。
普段は400人くらいは会って7次面接までするんですが、仮にオーディションで10万人に会っても、宮沢さんみたいな人には絶対にめぐり会えないという確信があった」
とくに鍵になったのは、五郎(田中邦衛)との入浴シーンだったという。
「普通の女優さんだと、自分の恋人の父親とお風呂に入るところが、どうしても演技になっちゃうんですよ。普通は入らないですからね。『自分なら入らない』っていうのがあると、無意識のうちに『こういうお芝居をしなきゃ』という気持ちが先に立つわけですよ。それじゃ困る。だけど宮沢さんならスルっとできちゃう気がした。大正解でしたね。やっぱり宮沢りえしかいなかった」(杉田氏)
宮沢の役づくりも、普通の俳優とは違っていたと杉田氏は話す。
「役づくりなんかしないんじゃないかな。彼女はただ現場で直感的に『これ、こうなのかしら』って、感覚的に“シュウちゃん”をぐっと捕まえちゃって、自分の中にそのイメージを引っ張ってくる」
そして一度「シュウ」が中に入ると、まったく自然に振る舞えるという。
「常にシュウちゃんが中に住み着いて、撮影が終わってご飯を食べている時も、『シュウちゃんならね~』っていうんです。寝ようが何しようが、シュウちゃんとずっと一緒。むしろシュウちゃんが自分の中にいないと違和感すら覚えるタイプなんじゃないかな。
彼女は天性の女優だから、どういう女優になろうなんて思っていない気がします。女優以外の自分なんて考えたこともないはず。宮沢りえイコール女優なんです」(杉田氏)