2巻が発売されるマンガ『これを愛と呼ぶのなら』

『これを愛と呼ぶのなら』2巻が発売間近

決して不倫をしたいわけではないけれど

 実はこの話において雅樹の左手は一度たりとも登場しません。手をつなぐときもご飯を食べるときも君恵を抱くときも、雅樹の左手は常に隠されている。それは君恵が「見て見ぬふり」をしていたことの象徴であり、心のどこかで不倫を望んでいたと言えるでしょう。

 決して不倫をしたいわけではない。だけど心のどこかで刺激を求めてしまう自分がいる。だからこそ雅樹の左手の指輪を見て見ぬふりをしていたのです。

 しかし、彼女は彼のメモで彼にも家庭があることを思い出してしまう。そして彼女はここで初めて右手を使うのです。

 普通なら逆でしょう。彼と会っているとき、彼に抱かれているときにこそ右手を使うべきなのです。しかし君恵は抱かれたからこそ、彼との思いに熱が入ってしまった。抱かれる前は火遊び程度だったのに、抱かれてしまったことで本気になってしまったのです。

 世の中に不倫は絶えることがありませんが、きっと多くの不倫はこうして始まるものなのでしょう。軽い火遊びのつもりがいつの間にか大火になってしまう。雅樹が抱いた瞬間にメモ書きひとつでそそくさと帰ってしまうのとはあまりにも対照的で、そしてそれが今後君恵に降り注ぐであろう不幸を想起させています。

 その後、ホテルを後にして電車に乗った君恵は窓に映る自分の“右手”を見て後悔をし始めるのですが、ここで右手を見てしまっているのもまた君恵の地獄を象徴していると言えるでしょう。雅樹に対しての思いを打ち消すのであれば、ここでこそ左手に輝く結婚指輪を見つめなければならなかった。しかし無意識に彼女は自分の右手を見てしまっているのです。

 電車を降り、自宅に向かう君恵がまたよい。彼女が乗っていたのは終電車なのですが、自宅の最寄り駅に着いた君恵はわざわざ自宅に電話して「これから帰るけど、何か買ってきて欲しいものある?」なんてことを娘と旦那に聞くのです。そして2人に「いらない」と言われると、強引に「プチシュー」を買って帰ろうとしました。

 普通なら同窓会を出るときに「これから帰るね」と言うものでしょう。迎えに来てもらうわけでもないのに、どうして最寄り駅に着いてから電話をしたのでしょうか? そんなの決まっています。彼女もまた「雅樹と何かあるかも」と心のどこかで願っていたからに他なりません。

 それではどうして最寄り駅に着いたら電話をするのか。

「何か買ってきて欲しいものある?」という取ってつけたような言葉にあります。浮気をした男が彼女に妙に優しくなるのと構造は変わりません。娘と旦那に「いらない」と言われているのにプチシューを買ってくと言い出すのは、何かを買わなければ罪悪感で押し潰されてしまう君恵の心をよく表しているでしょう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン