藤井は現役引退後に巨人、DeNAで計7年間裏方を経験した。選手たちのアーリーワークを手伝い、試合前に入念に準備する姿を間近に見てきた。この時間も大きな財産になっているという。
「巨人やDeNAで打撃投手、広報業務などの仕事をさせて頂いたことで視野が広がりました。首脳陣が選手にしているアドバイスに耳を傾けて勉強になることも多かった。プロの1軍で活躍する選手は準備を大切にします。阿部慎之助、高橋由伸さんはベテランになっても早く来て準備するのがルーティンになっていた。DeNAの三浦大輔監督、マサ(ヤクルト・石川)もそうですね。宮崎敏郎(DeNA)もウエイトトレーニング、ダッシュを欠かさずにやっていました。
一流と呼ばれる選手たちは調子が悪くても修正して結果を出す。それは正しい方向で努力、準備をしているからだと思います。地道な作業で表に出ない部分ですが凄く大事だと思います」
多くの選手や首脳陣から得た知識は、指導する上で必ず役立つだろう。ただ一つだけ大きな後悔があるという。
「古田さんにもっと配球のことなど色々聞きにいけばよかったです。そうすれば選手たちに役立つアドバイスがもっとできたと思います」
ヤクルトに入団以来、8年間バッテリーを組んでいた古田はどのような存在だったのだろうか。
「キャッチングが衝撃的でしたね。ミットに吸い込まれていくようで初めての感覚でした。僕は球が遅いので垂れるのですが、そう見せない捕り方をしてくれる。リードも凄かったです。バッターが考えていることの裏を突いたり、配球の押し引きが絶妙でした。打者と勝負できたのは古田さんのおかげです。ただ僕がついていけない部分もあって。たとえば3ボール1ストライクからフォークを要求されて、自信がないから首を振ってスライダー、直球を投げると痛打を浴びていました。古田さんの思い描く配球に自分の技術がついていけば、もっと勝てていたと思います」
藤井は年齢の分け隔てなく、コミュニケーションを取る能力が高い。輝いた時期だけでなく、故障で苦しんだり、ファームで過ごしていた時期もあった。4球団を渡り歩き、様々な環境で楽しいことも辛いことも味わったからこそ、人の心に寄り添えるのかもしれない。
ある悩みを明かしてくれた。
「ブルズには投手が15人いるんですけど、全員を試合に連れていけるわけではない。連れていっても登板機会が少なくなる投手がどうしても出てくるので。でも期待していないわけじゃない。一人ひとりに良いところがあるから伸ばしてほしい。ちょっとしたきっかけをつかんでガラッと変わる可能性もありますから。その思いを伝えるために、どういう言葉が心に刺さるか、モチベーションを上げられるか……。自分も日々勉強中です。選手たちがブルズに入ってよかったと思える時間にしたいですよね」
繊細な感情で紡ぐ言葉に、選手たちへの愛情が伝わってくる。練習中は投手たちを見るだけでなく、打撃投手を務めて打者に気づいたことを助言することも。NPBに1人でも多くの選手を入団させたい──選手たちを見つめる眼差しは真剣だ。【文中一部敬称略。前編を読む】
◆取材・文/平尾類(フリーライター)