1993年、金丸信・前自民党副総裁の逮捕を受けて、駆けつけた報道陣でごった返す金丸氏の自宅前(時事通信フォト)

1993年、金丸信・前自民党副総裁の逮捕を受けて、駆けつけた報道陣でごった返す金丸氏の自宅前(時事通信フォト)

「予算審議を進めるために、場合によっては証人喚問に応じてもらえないだろうか」と言う梶山に、小沢は「全て一任します」と素っ気なく答えた。

 小沢自身は、以前から「自分は何も知らないので証人喚問でも何でも応じる」と明言していた。「証人喚問に応じることで、竹下派時代の問題を清算できる。梶さんは俺が嫌がっていると思っているのだろうが、ここを乗り切ればむしろ動きやすくなる」と私たちに話していた。

 しかし、小沢と共にルビコン川を渡ろうとしていた羽田孜ら羽田派の議員の多くが、証人喚問で悪役イメージが強まることを恐れていた。社会党国対委員長の村山富市ら野党の一部と気脈を通じる梶山が、証人喚問をカードに小沢の動きをけん制していると疑う議員すらいた。私も、「証人喚問で清算できる」という小沢の見通しは甘いのではないかと思っていた。

 二月一七日午後、衆院予算委員会で小沢の証人喚問は行なわれたが、結局、二時間にわたる追及でも新事実は出ず、新聞各紙が「野党の追及不発」と書くほど波乱なく終わった。もちろん、「知らない、関係ない」で通した小沢の説明もとても十分とは言えなかったが、野党側にもこれ以上の追及は難しいという見方が広がっていた。

 その日の夕方、サシで反応を知りたかった私は小沢を探した。こういう時はまずあらゆるホテルの地下駐車場を片っ端から見て回る。従業員専用の目立たないエレベーターの近くが狙い目だ。少し青味がかったシルバーのトヨタ・セルシオを見つけたのは全日空ホテルの駐車場だった。ほどなく現われた小沢は私を見ると「またお前か」という顔をしながらも立ち止まった。

「野党はともかく、あれで世間が納得しますか。我々マスコミは『疑惑は晴れず』と書きますが」

 そう尋ねた私に、小沢は「何をやっても君らは悪口を書くだろう。しかし、俺なりにケジメはつけた。これで動きやすくなる。まあ、見てろ。これから仕掛け花火がパチパチだ」と答えた。

 そして後部座席に乗り込み、「もう、追いかけて来るなよ」という言葉を残して小沢のセルシオは走り去った。

極秘会議

 赤坂見附の交差点から弁慶橋を渡るとすぐ左手に現われるのがホテルニューオータニのガーデンコートだ。本館につながる六階でエレベーターを降りると日本料理屋「千羽鶴」がある。証人喚問から三日後の二月二〇日、ここで後に関係者が歴史を動かしたと振り返る出会いがあった。

 労働界のトップ、山岸章・連合会長と小沢の極秘会談だ。

 それまで山岸は、小沢に良い感情を持っていなかった。小沢が、社会党や民社党の若手議員とともに連合傘下の労組幹部と会合を持っていたことを「組織に手を突っ込んでいる」と感じていたからだ。小沢は山岸との関係を修復するため連合のブレーンでもあった政治学者の内田健三に仲介を頼み極秘会談にこぎつけていた。この席で小沢は「これまでの非礼をお詫びします」と頭を下げた後、改めて「自民党執行部が政治改革に後ろ向きの姿勢なら、離党も辞さない」と決意を語った。

 山岸は後にNHKのインタビューで、最後に小沢が畳に手をついて「私たちの身柄は会長にお預けします」と述べたと明らかにしたうえで、「驚いたね。これは演技だとか社交辞令でやっているんではないなと。それで我々もまともに受けて立たなきゃという気持ちになった」とその時のことを振り返っている。

 証人喚問にも応じた小沢が「離党も辞さない」と決意を語っている。それが山岸の気持ちを動かしたのだ。

 小沢の秘密主義は徹底している。いったん水面下の工作を始めると、その動静を掴むのは容易ではない。この時点で私の手帳には「二月二〇日小沢・山岸会談」とあるだけだ。周辺取材で会談が行なわれたことは分かっていたが、どんなやりとりがあったのかは、まだ掴めていない。しかし「仕掛け花火」の一つであることは間違いない。私はその全体像を知るべく取材を続けた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト