白鵬に勝ち名乗りを上げる木村庄之助(共同通信社)

白鵬に勝ち名乗りを上げる木村庄之助(共同通信社)

横綱・白鵬に物言いをつけられた一番

 そんな37代庄之助にも、物言いで勝敗判定が覆った経験がある。2014年5月場所12日目の豪栄道対鶴竜の一番で37代庄之助が豪栄道に軍配を上げたところ、土俵下で物言いの挙手をしたのは何と控えにいた横綱・白鵬だった(物言いをする権利は審判員のほかに控え力士にもある)。明らかに鶴竜の手が先についており勝敗は明白に見えたが、白鵬が指摘したのは「前のめりになった鶴竜の髷(まげ)を豪栄道が掴んでいた」というもの。ビデオ検証なども経た協議の末に、白鵬の物言い通りと認められ、豪栄道の「反則負け」となったのだ。ただし、反則負けは行司の「差し違え」とはならないのだという。

「150キロを超える投球のストライク・ボールを判定しなきゃならない野球も大変でしょうが、行司はもっと大変だと思う。力士2人が土俵上で激しく動き回るだけでなく、それに合わせて行司も立ち位置が目まぐるしく変わるので、勝った力士が東方か西方かを取り違えないように把握しておく必要がある。土俵際では足元から目が離せず、見える位置に回り込まないといけないし、そのために力士の近くに寄らなければならないが、絶対に取り組みの邪魔になってはならない。同体に見えても必ずどちらかに軍配を上げないといけないというのもシビアですね」(37代庄之助)

 判定の難しさに加えて、行司には身の危険も伴うという。

「野球の球審はプロテクターを着けているけど、行司は装束だけで防具なんてないからね。あの狭い土俵で巨体の力士2人がぶつかり合っている間に小柄な行司は立たなきゃならない。突き飛ばされた力士をよけきれずに土俵下まで転がり落ちたこともあります。危険は取組中ばかりでない。土俵下に座って控えている時に体重150キロの力士が落ちて来たら逃げられない。はっきりいって命がけでしたよ」

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