山下:または精神性としての装飾であったかもしれません。点々の丸模様はマムシの胴体に似ていて、毒を持つマムシに何か特別な思いを込めて模したのではないかとも、考えられます。
壇蜜:自分たちの食糧源になるけれど害も及ぼすという注意喚起だったのでしょうか。煮炊きに使う土器なので、水中を泳ぐ蛇に火の元の安全を願ったのかも。
山下:様々な仮説がどう検証されるか、今後の研究が待たれます。縄文中期の「顔面把手付土器」もユニークですよ。
壇蜜:同じく縄文中期の「縄文のビーナス」と比べると造作が違いますね。八ヶ岳山麓の土偶はつり上がった切れ長の目が特徴ですが、「顔面把手付土器」は垂れ目のやさしげな表情が印象的です。
山下:考古学界では出産土器とも呼ばれ、把手は子を宿す母の顔とされています。
壇蜜:垂れ目にも意味が生まれますね。この土器も煮炊き用だったのですか。
山下:形状から太鼓と酒造用の説があり、用途などはまだ研究の途上です。造形のレベルは高く、縄文中期の土器は日本美術の中で最も世界に誇れると思います。
壇蜜:縄文の遺物は令和の世でも解釈できない謎に満ちている。残されたヒントに好奇心がそそられて、ますます惹きつけられます。
●茅野市尖石縄文考古館
【住所】長野県茅野市豊平4734-132
【開館時間】9時~17時(最終入館は16時半)
【休館日】月曜(休日の場合を除く)、年末年始(12月29日~1月4日)、休日の翌日(休日・土・日の場合を除く)※臨時開館あり
【入館料】大人500円(20名以上の団体は400円)
【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団団長。
壇蜜(だん・みつ/1980年生まれ。タレント。執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『新・壇蜜日記2 まあまあ幸せ』(文春e-Books刊)。
■日本美術応援団である山下先生と壇蜜さんと首都圏の美術館・博物館16館を訪れ、いつでも作品を鑑賞できる「常設展」の魅力を伝える『私を美術館に連れてって』が発売中。
撮影/太田真三 取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2022年6月10・17日号