円安はいつまで続くのか(写真/共同通信社)
日銀総裁に就任するや黒田氏は「デフレ脱却」を掲げる安倍首相の期待に応えた。日銀は政府と「物価上昇2%」という契約(アコード)を結び、金融政策を大転換して“黒田バズーカ”と呼ばれる超金融緩和策をぶっ放して世界を驚かせたのだ。当初こそ株価は上がり、円安で輸出企業は空前の利益をあげた。
来年4月、黒田氏は2期目の任期を終えて退任する。だが、就任から9年、2%目標は一度も達成できていない。金融ジャーナリストの森岡英樹氏が指摘する。
「物価上昇2%というのは、ただ物価を上げればいいということではない。日本は長い間デフレが続いてきたから、金融緩和でお金を流して景気を良くし、企業が儲かって賃金が上がるという好循環で日本経済を2%成長させるという目標です。しかし、失敗でした。
企業は先行きが不安だから利益を内部留保として貯め込んで賃上げを後回しにした。金融緩和はお札をどんどん刷るようなもので通貨の価値が下がって円安になり、モノの値段は上がる。インフレと円安にするなら賃金の上昇が一番重要なのに、それができなかったばかりか円安まで招いてしまった。世の中、教科書通りにやってもうまくいかないのに、黒田さんは教科書通りにやろうとした結果、賃金が下がって物価が上がる悪いインフレ、悪い円安を招いた」
黒田氏の生涯賃金を試算すると、財務官僚の頃は官僚の待遇が最も恵まれていた時代で、次官級の退職金は早期退職割増しを含めて9000万円近かった。退職金含めて官僚時代の収入は推定5億円、アジア開発銀行の総裁給料は年約47.8万ドル、当時のレートで概算して8年間でざっと4億円。来年の任期まで10年間の日銀総裁の給料(年約3422万円)と退職金(約4400万円)が約4億円、それらを合わせた生涯賃金は13億円近くに達すると推計される。
エコノミストの間には、黒田氏が国民生活を無視するような値上げ容認論を続けてきたのは、「退任までになんとか物価上昇2%を一度は実現させたいという日銀総裁としての面子のため」との見方まである。だとすると、黒田氏は高額給料をもらい続けるうちに、「物価の番人」として国民生活に目を向ける気持ちを失い、“国民より面子”と我欲に溺れたのではないか。
※週刊ポスト2022年7月1日号