習と配下の間のずれ

 ウクライナ戦争までの両国のやりとりを見ていると、そのような構図が浮かんでくる。この証言を裏付ける事象が、戦争勃発後に一気に噴出する。

 ウクライナ戦争の前夜の2月23日。各国の情報機関は、ウクライナの首都・キーウ市内にある施設に注目していた。在ウクライナの中国大使館だ。中国が自国民の保護に動く時が、軍事侵攻のサインとみていたからだ。

 ウクライナは中国の広域経済圏構想「一帯一路」の最も重要な拠点で、キーウには中国から「一帯一路」沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」の終着駅があり、約6000人の中国人が在留している。半ば国策として派遣された中国人労働者も少なくない。

 だが、中国大使館は動かなかった。退避のチャーター機派遣を発表したのは、ロシア軍による侵攻翌日の2月25日になってのことだ。実際に退避が始まったのは2月28日で、米欧よりも半月以上も遅れた。こうした中国政府の対応の遅れに対し、中国のネット上では批判の声が上がった。

 中ロ両国の外交当局の間でも不協和音が出てくる。習は2月25日、プーチンと電話会談をした。中国外務省の発表によれば、ウクライナ侵攻について、習が「ロシアがウクライナと交渉を通じて問題解決することを支持する」と、プーチンに対して求めたことが記されている。ところがその3日後の28日になって、駐中国ロシア大使館は会談での習近平の発言の一部を付け加えて発表した。

「ロシアの指導者が現在の危機状況下で取った行動を尊重する」

 ロシアの侵攻に対し、習が理解を示すような発言といえる。両国の発表の違いについて、中国外務省関係者が舞台裏を解説する。

「習主席の発言は事実だ。しかし、中国政府内で議論した結果、発表文から削除することにした。ロシアの同盟国であるベラルーシが、欧米諸国による制裁を受けた二の舞を避けるためだ」

 ロシア軍の侵攻拠点の一つとなっているベラルーシに対して、欧米諸国はハイテク製品の輸出規制などを課した。ベラルーシとはけた違いに深く国際的な経済ネットワークや供給網に組み込まれている中国が制裁対象となれば、被害は計り知れない。中国外務省がトップの発言を削除したのは、危機感の表われといえよう。

 首脳会談と並行して行なわれた中ロ外相による電話会談で、中国外相の王毅はロシアの軍事侵攻について、ロシア外相のセルゲイ・ラブロフにこう釘を刺した。

「中国は一貫して各国の主権と領土保全を尊重している。対話と交渉を通じて持続可能な欧州の安全メカニズムを最終的に形成すべきだ」

 この会談の中身を知る中国外務省関係者の一人は、王毅発言の真意について説明する。

「ロシアによる軍事行動を暗に批判したものです。中国外交の基本原則である『内政不干渉』に反する行為であり、いくら両首脳同士の関係が親密だからといって、支持できるものではありません」

 習とその配下の中国政府当局者との間のずれが生じつつあるのは間違いない。

 こうした不協和音を打ち消すように、習は6月15日、プーチンと再び電話会談をした。この日は習の誕生日。プーチンからの祝辞もそこそこにウクライナ情勢を協議。軍事交流の強化などで合意した。そのうえで習はこう強調した。

「国際秩序とグローバルガバナンスをより正しく合理的な方向に発展させよう。そして核心的利益と重大な関心事に関わる問題を互いに支持しよう」

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