10年前に同じ夢を描いた
興奮気味の習は、12人の研究者らとの懇親会で両国関係についての自説を語り始めた。
「ロシアも中国も偉大な国で文化を有している。我々の最も重要な課題は、精神的かつ文化的に関係を強めること、永久に友人であること、そして決して敵対しないこと。中国とロシアの『夢』は一致しているのだ。我々は共に協力し、新しい成果を得なければならない」
その前年の11月、中国共産党トップに就任した習は、中華民族の偉大な復興の実現を目指す政治スローガン「中国の夢」を掲げていた。かつてローマ帝国に及ぶ広大なシルクロードを勢力下に置き、文化や経済でリードした中国の栄光を取り戻すことを目標に掲げている。シルクロード経済圏構想「一帯一路」構想をはじめとする習近平政権の強硬外交の礎となった。2017年の第19回中国共産党大会では、毛沢東思想などと並んで党規約に盛り込まれている。
興味深いことに、習はその「中国の夢」と「ロシアの夢」が一致している、と指摘している。
その10年後に起きるロシアによるウクライナ侵攻をあたかも予見するような発言といえる。
「プーチンは世界がタイムスリップして、国連ができる前の時代、つまり帝国が世界を支配していた時代に戻ってほしいのだ。しかし、世界の他の国々は前進している。今は1919年ではない。2022年だ」
今年2月に開かれたウクライナ戦争をめぐる国連安全保障理事会で、米国連大使のリンダ・トーマス・グリーンフィールドがこう指摘したように、プーチンは、18世紀のロシア帝国時代の領土に対して正当な権利を持っていると主張して、ウクライナ侵攻に踏み切った。
かつての帝国の版図を取り戻す──。
10年前に同じ「夢」を抱いたプーチンと習が今、連携を強めているのは、いわば宿命なのだろう。初会談で習がプーチンに「我々は似ている」と言ったのも、こうした相似形を指摘したのだろう。