一条ゆかりさん

一条ゆかりさん(C)山田英博

 漫画を描いていくためならなんでもやってやる~という決心は、バイトではなく原稿に向かいましたね(笑い)。恋愛より、結婚よりも漫画の方が大事でした。

 私の場合、『プライド』に出てくる蘭丸くんみたいな男がいたら、必死に仕事をする私へのご褒美だと思って、彼と楽しく遊びたい(笑い)。男性に対して大きな野心はないですね」

 痛快すぎる一条節は、聞けば聞くほど気持ちがスッキリする。しかも、的確な答えが返ってくるので、思わず悩みを打ち明けたくなる。

「私、よく相談されちゃうんですよ。出版社のパーティー会場で初対面の女性からいきなり悩みを打ち明けられたりしてね。聞かれたから答えているうちにだんだん行列ができてきて『集英社の母』状態! その場を一歩も動けないうちにパーティーが終わってしまいました」

 そう言ってコーヒーをひと口飲むと、テーブルの上に置かれた一冊の本を手に取り、話を続けた。

「世の中、他人に相談したい人がなんと多いんだろうと呆れる半面、相談なのかグチなのかわからない人も多いんですよ。あと……私はかわいそうな被害者で……と訴える人の話を聞いているうちに“いや、君は加害者では?”って思える人もチラホラいますね。

 長い間、生きているといろんな人がいて、いろんな目にあったので、この本のネタには困りませんでした(笑い)」

 この本とは、新刊本『不倫、それは峠の茶屋に似ている』(集英社)のこと。描き下ろしショート漫画『その後の有閑倶楽部』も収録されているファン待望の金言集だ。

 表紙の「たるんだ心に一喝!!」という文字が目を引くが……。

「私に相談を持ちかける人って、ものすごく大変な人はほとんどいなくて、心がたるんでいるっていうか、ちょっと楽してうまくやりたい人が……いますねぇ。たとえば、車を運転していて後ろからクラクションを鳴らされたら、まず、『自分が変なことをしているのかな?』って思うのが普通の日本人じゃないですか? だけど悩んでいる人の多くは、自分のことで手いっぱいで余裕がなくて、ノロノロ運転の自分を省みず、後ろの車にあおられたと言って悔しがったり、泣いたり。泣きたいのは後ろのドライバーの方ですよ。人生のドライブも同じで、被害妄想の強い人は自分を守るのに必死だから幸せになりにくいですよ」

◇いちじょう・ゆかり/漫画家。1949年9月19日生まれ、岡山県玉野市出身。6人きょうだいの末っ子に生まれ、小学生の頃より漫画を描き始める。『デザイナー』『有閑倶楽部』『プライド』などヒット作は数知れず、ドラマ化された作品も多い。現在は、家庭菜園にハマっている。ウエブマガジン『OurAge』で40、50代女性に向けたエッセイを連載中。

(第2回につづく)

取材・文/丸山あかね

※女性セブン2022年9月1日号

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