自分は自分が大切だと認識するべし

 それにしても、「自分を客観的に見つめる」という視点を、一条さんはどう身につけたのだろうか?

「私の場合でいえば、育った環境の中で自然に身についたという感じです。私は姉2人、兄3人の6人きょうだいの末っ子なんです。姉や兄を見て、『こんなことをしたら親に叱られるんだ』といったことを習得することができたので、精神的な成長が早かったように思います。つまり、貧困家庭の末っ子で、家族の中でいちばん立場が弱かったので、場の空気を読むスキルが必要で……要領がよくないと、家庭内で最下位の立場で、自分の安全な居場所を確保することは無理ですから。ちょっとした家庭内サバイバルでしたよ」

 自分を守るためにはどうすればいいのか?と真剣に考えれば、自然に自分を客観的に見ることができるようになる……。

「そう。自分のことを大切だと思えるかどうかで、物事の捉え方や生きる姿勢が変わってくると思います。『私なんて』と自分を卑下する人は、謙虚そうに見えて、実は怠け者なのではないかと私は思っています。だって、そんな自分を認めて、おまけに直す気もなさそうですよ。

 これを目の前で言われて『そんなことないわよ!』って言わないと気まずくなるし、とっても便利なせりふだなぁと思います。

『私なんて、どうせ』とかのせりふを聞くたびに、『あ~“そうだね!”って言いた~い!! 全否定してやりたい!』ってよく思います。怠けないで、“なぜ自分はこうなんだろう”と自己分析して、傾向と対策を考えて改善していただきたいものです。

 ちなみに私は、母に守ってもらうためにいろいろ努力していました。

 元教師の母は、師範学校、いまの教育大学ですね、そこを1位で出た才女で、昔の教師にありがちな上から目線の人で、『デザイナー』の中に出てくる『二番もビリも一緒よ』というせりふは、母のせりふなんですよ。あまりにインパクトがあったので使わせてもらいました(笑い)」

 人の心理を見抜く鋭い洞察力は天性の才能なのだろう。

「う~ん、必要に迫られたって気もしますが、漫画家としては必要な武器ですね。子供のときから周りの人間を観察するクセがついてしまって、こういう行動をする人はこんな性格なんだとか、勝手に人間チェックをしてしまうんですよ。プロになっても、本を読むより、人に会う方が好きでした。

 本はいつでも読めるけど、人って旬があるんですよ。いろんな人に会いたくて、お酒の席には喜んで行きましたね。

 お酒が入るとみんな、口が軽くなるし、知りたいことは教えてくれるし、本から学ぶより人から学ぶ方がずっと楽しかったですね。お酒が強くてよかったです」

◇いちじょう・ゆかり/漫画家。1949年9月19日生まれ、岡山県玉野市出身。6人きょうだいの末っ子に生まれ、小学生の頃より漫画を描き始める。『デザイナー』『有閑倶楽部』『プライド』などヒット作は数知れず、ドラマ化された作品も多い。現在は、家庭菜園にハマっている。ウエブマガジン『OurAge』で40、50代女性に向けたエッセイを連載中。

(第3回につづく)

取材・文/丸山あかね

※女性セブン2022年9月1日号

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