深く心の底をえぐっていくような言葉
10代の頃によく歌っていて、今でも時々、口をついて出てくるのが『限りない欲望』(72年)です。ニュースや世の中を見て“どうして人はこんなに欲望を持つのだろう?”と思った時、「限りないものそれが欲望」という歌詞が自然と出てきてしまう。そういう意味では、付き合いの長い1曲です(笑)。子供の時にはまった歌詞なのに、60歳を過ぎてもまだ口から出るのは不思議な感覚なのですが、これは普遍的なフレーズなのだと思います。
子供の時の欲望を並べた1番から始まり、結婚式で指輪をはめようとした指が「見飽きたようでいやになる」と歌う2番、年をとって「どうせ死ぬなら天国へ」と限りない欲望を貫く3番と、深く心の底をえぐっていくような言葉、歌詞の構成も人生の流れに沿って非常にうまくできています。欲望の歌として、今後この曲を超える歌が出てくるのは難しいのではと思うほどの完成度です。
【プロフィール】
齋藤孝(さいとう・たかし)/1960年生まれ、静岡県出身。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。今年7月、大人の学び直しにも適した新著『小学生なら声に出したい音読366』(小学館)を上梓。
取材・文/上田千春
※週刊ポスト2022年9月2日号