きちんと休むために、飯塚さんが伝授するのは、「自分の感覚に意識を向けること」。
「リラックスとは特別な行動をしたり、ぼんやり過ごしたりすることではありません。食べる、入浴する、歩くなど当たり前の日常生活の中で体現すべきものであり、そのためには環境作りが大切です。たとえば自分のいる部屋の状態や日々のスケジュールがシンプルに整っていることで雑音が減り、心地よさを味わいやすくなります。
自然環境と接点を作ることも必要です。ここ(米子)の風も波の音も草花も温泉もすべて最高のエンターテインメント。それらを味わうことでリラックスでき、幸福感や意欲がわいてくるのです」
メンタルの不調の改善には、生活リズムを整えることも欠かせない。
「体内時計は、私たちの血圧、体温、ホルモン分泌などを調節し、生体機能のバランスを取る重要な機能を担っています。ですが現代人は不規則な生活で体内時計が乱れやすくなっている。特に夜にスマホを見続けてブルーライトを浴びると、睡眠の質を上げたり、抗酸化作用で体のメンテナンスをする役割を持つ『メラトニン』の合成が止まってしまう。
反対に、朝日を浴びると体内時計がリセットされ、“幸せホルモン”と呼ばれ、メラトニンの原料でもある『セロトニン』が多く生成されます。夜にはそれをもとにしてメラトニンがたっぷり合成され、私たちの体を整えてくれます。このサイクルを体現するために私はだいたい夜7時までには食事をとり、夜10時には寝て、朝5時頃に起きるようにしています」
特に「徹夜しても平気」という人ほど、夜更かしは避けるべきだという。
「夜に強い人は、覚醒系の神経が高ぶりやすい体質です。無理ができてしまう半面、気づかないうちに体に大きな負担がかかっています。このようなタイプの人は夕方以降は極力仕事や作業を中断して夜10時頃までに寝ることで体調は大きく改善します」
「先生がいなかったらどうなっていたことか」「先生、絶対にやめないでください」。患者たちは口々に言う。しかし当の飯塚さんは「そうした言葉は決して好ましいことではない」と断言する。
「医師に依存しすぎるのはいいことではありません。“不調は自分の力で治せる”。そう思えるようになってほしい。それがぼくの願いです」
そう言って笑った飯塚さんの後ろには、波の音が静かに響いていた
撮影/浅野剛
※女性セブン2022年9月29日・10月6日号