ロシアのプーチン大統領(左)と石油会社ルクオイルのラビリ・マガノフ会長。マガノフは9月1日に亡くなった(AFP=時事)
預けた部屋の鍵を頼むと、フロント係が「失礼ながら、お部屋をグレードアップさせて頂きました」と違う部屋のキーを差し出した。通された部屋は、クレムリンが見えるスイートルーム。料金はそのままだが、おそらく盗聴器だらけの部屋だと推測できた。
ロシアには取得していた業務ビザで入国した。会合は主催者から招聘状が届いたものだったが、政治家やメディアが絡んでいたため、チェックされたのかもしれない。情報機関に詳しい専門家にそう話すと、「入国直後から、おそらく行動監視されていたのではないか。理由は誰と接触するのか、どんな行動を取るのかの確認だ。危険と見なせば、なんらかの方法で排除されることになっただろうと言われた。
日本国内にある大使館でもチェックされる経験をした。ある情報機器について話を聞きに行った在日某大使館では、面会した大使館員に「敵性外国人ではないと承知していますが、事前に、写真と声を入手させてもらいました」と伝えられ、海外公館の危機管理体制の厳しさを垣間見せられた。
もう何年も前になるが、中国政府に敵性外国人とみなされ、ブラックリストに名前を載せられたことがある。理由は当時、中国が開発を推し進めていた市の幹部たちの依頼を断ったためだと思うが、米国ワシントンに本部がある戦略国際問題研究所の上級研究員から連絡を受けた時は、さすがに驚いた。「ブラックリストに名前があがっている間は、絶対に中国にはいかないように。命の保証はできない」そうアドバイスを受けた。
その後、市の幹部や権力者たちも変わり、名前はブラックリストから外されたらしいが、中国へ行こうという気にはならなかった。ところがその数年後、ある席で在日中国大使館の大使館員たちと名刺交換し、雑談する機会があった。すると今度は、大使館主催の国慶節の行事への招待状が届いたのだ。人物調査をされバックグラウンドを調べられたのだろう。
「ブラックリストとして排除するより、あなたが持っている米国やロシアとの人脈を前提に、何らかの情報を得ることができる可能性を考え、味方に取り込んだ方がメリットがあると判断したのだろう」と先の専門家は分析した。
敵か味方か、白か黒か。国によっては、相手の判断次第でオセロゲームのように対応がひっくり返る。専門家に告げられた”なんらかの方法”という表現が何を意味するのか、10人の不審死がそれを物語っているような気がした。
