カタールの「974スタジアム」の前に立つ寺川俊平アナ(Instagramより)
【4】絶妙なフォロー
【例1】ドイツ戦の後半18~19分
本田氏:(浅野拓磨を追ったリュディガーの走法を見て)ちょっと今のは性格悪い。ちょっとバカにした走り方してる。
寺川アナ:そういう意図があるのだとすれば、ちょっと嫌な感じもします。
必要以上にコンプライアンスを気にする放送が多々ある中で、本田氏はピッチ上や普段の話し言葉で使っていそうな「コイツ」「うざいな」「雑い」なども中継でも使っている。この姿勢がまた視聴者の共感を呼んでいる面もあるだろう。このシーンでは、「性格悪い」「バカにした走り方」という本田氏の表現を、寺川アナは「だとすれば」と仮定に変えた上で「感じもします」と和らげている。
【5】普段から関係性を構築
放送を聞いていると本田氏が寺川アナに心を許しているように感じさせる場面がある。
【例1】ドイツ戦の前半29分
アナ:キープする本田……失礼、キープする久保です。
本田:僕も出た方がいいですかね。
アナ:すみません。本田さんと言おうと思っていたら。
本田:試合、出ましょうか!?(笑)。
【例2】コスタリカ戦の後半3分
本田氏:守田さんのパス、アウトですよ。
寺川アナ:アウト?
本田氏:右のアウトです。
寺川アナ:はい。右のアウトサイドで出したパス。
本田氏:まあ、オシャレって話です。寺川さん、ゴールキーパーだったんですよね。
寺川アナ:そうです。
本田氏:オシャレさがちょっと。
アナ:いやいやいや。そうですね。ちょっと理解できないところがあるかもしれません。
本田氏は【例1】ではすかさず突っ込み、【例2】では大学時代に早稲田大学ア式蹴球部(サッカー部)のGKを務めた寺川アナをいじった。これらの冗談は本人のキャラクターに依る部分も大きく、普段本田氏から積極的にコミュニケーションを取っている可能性も高い。ただ、寺川アナには良い意味での“隙”を感じさせる部分もあるのだろう。試合以外の交流で、突っ込みやすい性格と本田氏が感じ取ったのかもしれない。
話を具体的に深掘りできるのも、中継以外の場面で頻繁に話している様子からだろう。実況が「どうして」「どうすれば」と聞いていいのか躊躇してしまうスポーツ解説者もいる。寺川アナは普段の会話から、本田氏には具体的に尋ねても大丈夫と確証を得たのだろう。
話し手の影には、聞き手という地味ながら重要な役回りがいる。その人の才覚いかんで、視聴者に与える話し手の印象もだいぶ変わってくる。本田氏の持ち味を存分に引き出している寺川アナは、W杯中継で見事な役割を果たしている。
■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では細かいデータや丹念な取材でマニアをも驚愕させた。松木安太郎氏の解説を詳細に分析する書籍構想を持っているが、約20年分もの映像収集が困難を極めている。