そしてそういうトップほど、「うちの若いやつが勝負をかけたからな」と自慢気に話をし、「うちのやつらは口が堅いから、俺まではこない」と話すらしい。元組長に言わせれば、「今のご時世、こんなことを自慢する組長のところには、人が集まらなくなってくる」。
巡り合わせでどうなるかわからない
元組長の組はそこそこ大きかったが、彼は目立って出世をしたいタイプではなかった。だから、頻繁に「やれ」と命じる組長の下にいる組員が、かわいそうになるらしい。「自分でその人についていきたいと思ったのではなく、自分の親分がそこについたから、その組織に入ったという者もいる。ヤクザの世界、巡り合わせでどうなるかわからない」。
「組員が口を割らないのは、そいつが組織にいる下の者としてしっかりしているからで、組長が尊敬できるとか、リーダーとしてきっちりしているというわけではない」と元組長は言う。「そう豪語する人ほど、どこからか自分が関与し、指示したことがバレ、その人まで捜査の手が伸びるものだ」(元組長)。結局は組長も逮捕されることになる。
ところが今では若い者が入ってこないこともあり、世間を騒がすような襲撃事件は、下っ端の組員ではなくシニア幹部が勝負をかけるという事態が続いている。「どこの組でも本部組織に行きたいやつは多く、そこに人が流れているが、新しい者がどんどん入ってきているわけではない。わざわざヤクザを選ぶような若い者はいなくなってきた」という元組長は、「ヤクザになっても稼げなくなったしな」とため息をついた。
「さてこれから正月に向け、年賀状を自分で印刷する」。前はすべてを印刷店に出し、宛名書きは書き家と呼ばれる人たちに頼んでいたというが、「パソコンとプリンターがあるから、自分でカチャカチャやればできる」と軽口をたたいて笑った。どれくらい印刷するのか、あえて聞かなかった。