尖閣諸島の問題も(時事通信フォト)

尖閣諸島の問題も(時事通信フォト/沖縄県石垣市提供)

峯村:もう一つ注目すべきは、昨年12月、中国全土でゼロコロナ政策への抗議活動が発生し、「習近平退陣せよ!」と訴えたことです。監視システムが行き届いた中国でこうしたデモが起こるのは異例で、習氏は、文化大革命で反革命として処刑された高官と自らを重ねたはず。恐怖にかられた習氏が共産党支配の正統性を高めることを急ぎ、台湾統一を前倒しする可能性があります。

細谷:中国経済がゼロコロナで想定以上に悪化したことも、台湾統一を後押しするでしょうね。

峯村:昨年10月、米海軍のマイケル・ギルディ作戦部長は「この20年、中国はやると言った目標を想定より早く達成した」と語り、2023年にも台湾有事が起きる可能性を示唆しました。彼の発言通り、中国の目標達成スピードは想定を上回っており、いつ起きてもおかしくない状況です。

小泉:軍事面では、同盟国が攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国への攻撃を他国にも思いとどまらせることを「拡大抑止」と言います。ウクライナ戦争の教訓は、アメリカの拡大抑止が利かない国は侵略されるということ。アメリカの同盟国ではない台湾は拡大抑止が明確に利かない上、核を持たず通常戦力も中国が有利とみられる。これでは中国の侵攻を阻止できないのではないか。

峯村:台湾がウクライナと決定的に違うのは、台湾は海に取り囲まれていること。つまり、海上封鎖された場合、武器や食料が簡単に干上がる。中国は民間船舶を使って戦車を運ぶ準備を進めて揚陸能力も向上しており、台湾が不利な情勢に傾いています。

第2回に続く

【プロフィール】
小泉悠(こいずみ・ゆう)/1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。外務省専門分析員などを経て現在は東京大学先端科学技術研究センター専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。

峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年生まれ。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、青山学院大学客員教授、北海道大学公共政策学研究センター上級研究員。朝日新聞で北京・ワシントン特派員などを歴任。

細谷雄一(ほそや・ゆういち)/1971年生まれ。英国バーミンガム大学大学院から慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。北海道大学専任講師などを経て、現在は慶應義塾大学法学部教授。

※週刊ポスト2023年1月13・20日号

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