♦いまの研究テーマは「ヤクザが弱るとどんな犯罪が生まれるか」
マルティーナ氏は大学院で「暴力団がなぜ日本社会で存在し続けるのか」を研究していた。ヤクザが、過去から現在まで、どのように日本の社会、経済、政治に影響を及ぼしてきたかを文献に当たって調べ、調査し、考察したのだという。今の研究テーマはなにか?
「ヤクザが弱ってくると、どういう犯罪が生まれるかを研究しています。なので半グレの人たちにも取材します。昔、カラーギャングの人たちに取材したことがあるんです。みんな同じ色の服を来て、たまに強盗なんかはするんだけど、よくよく話を聞いたら『楽しいから集まっている』と言う。まるでクラブ活動のノリで、海外ではそれをギャングとは言わないです。
イギリスのギャングは町によるんだけど、ナイフを使うのは一般的で、年間数人がギャング同士の抗争で死亡します。一般人も巻き込まれ、大きな社会問題なので、日本は本当に独特だと思います。あとドラッグに関する意識も日本は先進国とずいぶん違います。ロンドンの金融街であるシティでコカインとかへロインとか、アッパー系の麻薬を使ってる人はたくさんいるし、大学でもはやマリファナは一般的です。ドイツなどでもセックスドラッグとして普通の人が大麻やドラッグを使っているし、嫌悪感を持たれない。ヤクザもマフィアもギャングも、ドラッグ売買にタッチしているけど、バックグランドはずいぶん違うので、一概には言えません」
話を聞いて、考えが変わった。私は今でも、外国人がヤクザを理解できるのか懐疑的だ。日本は世界のスタンダードと違いすぎる。まどろっこしい本音と建て前の二重構造を理解しないと、日本そのものが見えてこない。
そもそもヤクザという存在には、善くも悪くも、日本の曖昧さが濃縮されている。私が在席していたヤクザ専門誌『実話時代』は2019年9月号で廃刊となったが、それまでは堂々と、一部のコンビニエンスストアで売られていた。唯一の特定危険指定暴力団である工藤會は『実話時代』の常連で、王将フーズ社長殺害事件の容疑者は、過去、三度も『実話時代』に登場し、インタビューに応じている。
また災害が起きれば、ヤクザはボランティアに走り、自腹で被災地に支援物資を送る。悪にまみれながら善を希求し、専門誌をはじめ、実話系の週刊誌がこぞってそれを称賛する。そんな国は世界で日本だけだ。その理由が外国人にわかるのだろうか。
が、マルティーナ氏の話を聞くと、外国人ならではの視点がある。彼女は確かに日本の独自さを理解している。考えてみれば私自身が、カタギとヤクザの境界線をうろつく半端者ではないか。中途半端な立場の強み、境界線からしか見えない真実は確実にある。
【了。第1回から読む】