朝礼で責められ、精神的に追い込まれる
営業の電話をかけていた者やコールセンターでクレーム処理などを行っていた者は、やはり電話応対がうまいと話す。だがノルマを達成できる者ばかりではない。「闇バイトの高額報酬につられて応募する者は、かけ子なら自分でもできると思って入ってくる。ノルマが無理なら過酷な状況に追い詰められるなどと思っていない」と元組員はいう。
そこで達成できない者が最も精神的に追い詰められるのが、毎朝の朝礼の前だ。朝礼では毎朝、その日のノルマが割り当てられるだけでなく、前日に課せられたノルマの達成額を発表しなければならなかったからだ。
「できなかったヤツにとって、朝礼は針の筵だ。そこで前日の達成額をみんなの前で発表するんだが、ノルマができていなければボロクソに言われ、責められる。怒鳴られたり、どやされたりするのに慣れていない者は、それが怖くて怯えはじめる。そうなるともう絶えずびくびくして、アポ電してもうまくいかない。どんどん精神的に追い込まれていく」ノルマが達成できた者は”今日もみんなで頑張ろう!”と電話に向かって頑張るが、そうでない者は表情がだんだん暗くなり、他の者と目を合わせなくなる。
そういう者の中には、日を追うごとに精神的におかしくなっていく者もいるという。耐えきれなくなれば、最悪の選択をする者も出てくる。
「ある朝、起きた時には部屋にいた男が、朝礼に出てこなかった。そいつは電話の応対が下手すぎて、相手に電話を切られてばかりいたらしい。連日、ノルマを達成できず、スタッフにどつかれ、怒鳴られていた。最初は、朝礼に出たくなくてトイレに行っているのかと思ったらしいが、探してみたらビルの屋上から飛び降りていたというんだ。一命は取り留めたと聞いたがね。そのハコはその場で解散だ。自分がいたハコでも、トイレで自分の手首を切った者がいた。大した傷ではなかったが、もしもが起きたら大事だ」
ハコにいた者以外、その人間がそのハコで働いていたことを知る者はいない。
「そのハコ以外でも、闇バイトできたヤツが飛び降り騒ぎを起こしたという話は聞いたことがある」と元組員はいう。特殊詐欺グループとの関係が明らかになっていないだけで、闇バイトに応募してしまったがゆえに加害者となり、そして犠牲者になってしまった者がどこかにいるのかもしれない。