暴力団事務所に使用制限仮命令の紙を張る兵庫県警の警察官(時事通信フォト)
そのためか、今号は祝宴時の写真は掲載されていない。とはいえ新報での報告によれば、宴席はこれまで同様、豪勢だったことがわかる。料理のほかに毎年恒例の立派な焼き鯛と白い大きなバースデーケーキが用意され、今年のケーキには菱の代紋がデコレーションされていたという。過去の新報に掲載されていたケーキの様子を参考にすると、おそらく生クリームにフルーツが飾られた2段ケーキで、およそ50~60cm四方はあったと思われる。だがここで気になるのは代紋だ。暴力団組織にとって代紋は何より重要なものだが、ケーキに飾られた代紋は何でできていたのだろう。プラスチック製の物が張り付けられていたのか、それともチョコレートで作られていて組長が食したのか。割られたり、切り分けられたとしたら、組にとって縁起のいいものではなかったはずだ。
2023年誕生会を伝える新法の報告ではあまり詳しく語られていないが、過去の報告では、華やかで賑やかに祝われていた様子が伝えられている。祝宴に華を添えるコンパニオンたちも参加しハッピーバースデーを歌っていたというが、今年、彼女たちが呼ばれたかどうかは不明。祝電や他組織からの祝いがあったのかも不明。
以前なら、どこの組の誰が祝いに訪れた、誰から祝いの花が届いたと報告されていたが、個別の名前は一切書かれていない。警察も組の動きには目を光らせ、恒例行事がいつ行われるのか監視しているだろうが、内部で何が行われていたかまではわからない。山口組新報は、警察にとってそのような詳細をチェックするための1つの材料でもある。コロナ禍が収まり、世間ではコロナ前のような宴会が催され始めたが、今回の報告を読むと、稼業の世界に対し、ひと昔前のように存在感を誇示するものではなくなっているようだ。
そしてそれでも誕生会では恒例のカラオケ大会で盛り上がったようだ。で、ここで必ず披露されるのが山口組テーマ曲『任侠一筋』。今回も歌自慢の幹部にとってこの曲が歌われた。シンプルなメロディのこの曲は、司組長を称えた歌詞で”おとこの道を負けてなるかと生きていく”という内容を歌う
六代目山口組はこの歌のように、警察からの弾圧や世間からの差別にも負けてなるかと、2023年誕生会の様子を伝える新報1頁目の巻頭言に六代目山口組若頭補佐が書いていた。警察当局からの圧力や不自由な生活を嘆いていても始まらないので、難局を乗り越えるために皆で力を合わせ、諦めることなく前に進み続けようと呼びかけている。ヤクザも生き残りをかけ、様々なことを考え、変化しようともがいている。
それに応じて警察組織も、ヤクザを逮捕できるような様々な手法を考えていかなければならないということだろう。前述の高圧ガス保安法違反などはそのひとつで、違反をした本人および法人も罰せられる。山口組新報で行事のにぎやかな様子が伝えられることも減ってゆくのだろう。