幼少期には実家に訪れたONこと読売巨人軍の王貞治と長嶋茂雄にスポーツ紙が密着。記念撮影が紙面にもなった。金平氏が中学に上がると、人気絶頂を迎えたアイドル松田聖子とも対面できる父親の威厳があった。だがその一方で、父親が大金を稼いでも「あればあっただけ、外で派手に使ってしまう」と、実に昭和気質の会長だったとも話す。
「親父が亡くなる少し前です。ガンになったと聞かされ、『協栄ジム』の財務状況を初めて経理の人に確認したんですね。そこで30億の借金を抱えていると知って、僕が会長となった時はこの借金をどうやって返すのか。そればかりでした。でも、良い思いをしてないかと言われればありましたし、(今の状況は)自業自得なんですよ。そう認識すべきだと思えるようになった。こうして再出発が出来て、僕みたいに、何か秀でた能力がなくても、その前に何をやってきたか。それが大事ですよ。自分がやってきたことは無駄じゃない。病気でぶっ倒れても不運はずっと続かない。世の中捨てたもんじゃない。やっぱり拾う神もあるから」
大阪に移住して5か月。毎朝6時に起床して、メールの確認から一日は始まる。隣人を気にして7時を迎えてようやく動き出す。部屋の換気をして、それから掃除、洗濯とすべて一人でこなす。
こうした規則正しい生活を送るようになったのも大谷翔平が活躍するエンゼルスの試合を生中継で観戦するためだというが、西成に移住した初日に壁の穴よりも大きな問題が発覚し、それがいまも金平氏を悩ませているという。今時珍しい、BS放送が映らないアパートというオチがつく。
「BSが見られないから地獄ですよ。部屋にWi-Fiを繋げたんでABEMAプレミアムのネット配信で見てますが、今年からなぜか放映がNHKのBSばかりでABEMAの中継が減って大変です。やっぱり生で見たいじゃないですか。仕方ないのでYouTubeで音声実況を聞いて、それで大谷選手がホームランを打つとすぐにTwitterを開いて、公式の映像でホームランを確認する。ただ、僕が見てるとね、ホームランを打ってくれなくて……。今日なんて試合中、急いで昼食の魚を買い出しに行ったら、大谷君に打席が回ってきて12号を打っちゃうんだもの。慌ててTwitterで確認しましたよ(笑)」
会長として現在の主な仕事はスポンサーの挨拶回りや打ち合わせなどで、その大半は単独行動。公共交通機関をスマホで検索して慣れない大阪を一人闊歩する。
そこに、悲壮感はもうない。
取材・文・カメラ/加藤慶
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