瀬戸内さん亡きいま、そうした発言をする人もいなくなったと、延江さんは憤る。
「性愛そのものを否定するような風潮へのアンチテーゼとして『J』を小説として出す意味があるのかなと。人間、性に関して否定をするものではなく、どこまでも業が深い。あるものをなかったものにせず、真正面から描くことが文学だと、寂聴先生に学びました」
Jを通して延江さんは、高齢女性の性をどう捉えたのか。
「『源氏物語』の現代語訳を手がけられた寂聴先生においては、時空を超え、1000年前の性愛の世界に身を置いていた感覚があったと思います。男と女の中にはセックスが重要な位置を占めていて、閉経で切り離せるものなどではない。
この本の話をパリの友人にしたら興味を示していて、『セックスには喜びも悲しみもある。だからこそ人生なんだ』と教えられました。情欲で制御不能になった女性の心情を綴って昨年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーを生んだ、アムールの国だけあります」
フランスでは、ごく当たり前に老齢期も性の悦びを享受している。
「ただし、それぞれが真剣でなければいけない。真剣だからこそ年齢や枠組みを超え、性愛が人生の大部分を占める。日本でそれを生涯実践したのが寂聴先生だったのでしょう」
果てしなき、性愛の旅路──Jが辿った愛の軌跡が、私たちの内なる業へ問いを投げかける。
取材・構成/渡部美也
※女性セブン2023年7月27日号