刑期を終えた後、小説の完成にこぎつけたのに、応募した京アニ大賞では一次審査で落選した。これは事実だ。だが、弁護側の冒頭陳述にあった、刑務所生活の頃から「闇の人物」からメッセージを受け取るようになり、しだいにその「闇の人物」さまざまな嫌がらせを受けるようになったという話はにわかには呑み込めない。法廷の様子を産経新聞はこう報じている。
〈弁護側はこのときの刑務所生活の中で「闇の人物」から、貸し出しの本やテレビCMなどを通じ、さまざまなメッセージを送られるようになった、と述べた。(略)〔引用者注・公募落選も〕弁護側は「闇の人物が仕組んだ」と青葉被告が捉えていたと説明。「闇の人物と京アニが一体となって、嫌がらせをしている」「闇の人物と京アニからは逃れられない」と思い込むようになり、両者を「消滅させたい」と犯行に及んだと訴えた〉(産経新聞9月5日13時6分更新)
少なくとも青葉の認識では、追い詰められていたという弁護側の冒頭陳述になっている。そこまで読んで筆者が思い出したのは、4年前の事件発生直前、住んでいた安アパートで、青葉被告が隣人の20代の青年に食ってかかって放ったこんな一言だ。
「うるせえ、黙れ、殺すぞ、こっちは余裕ねえんだ」──
事件の4日前、揉めごとに巻き込まれたこの青年は、取材に対してこう話した。
「危ない目つきでした。鋭い? 言葉にするのが難しいんですけど、『殺すぞ』と言われた時、この男はやるんじゃないかなと思った。大きな声では全然なかったのですが」
この青年のせいではないのに、上の階から聞こえてきた異音を青年の部屋に原因があると勘違いして怒鳴り込んできた。青年が「上の人に言ってください」と伝えると、上記の通り、「余裕ねえんだ」と言い募ったという。なぜ、どんなふうにそこまで煮詰まって過熱していたかは、冒頭陳述の報道だけでは、まだつかめない。