4年間の沈黙を破った

「事務所に聞いてね」と言うばかり

 1971年に本名の井上陽水に改名して再デビュー。名曲『人生が二度あれば』や『傘がない』を収録したファーストアルバム『断絶』をリリースしたが、当時は吉田拓郎や泉谷しげるらが活躍したフォークブームの全盛期。メッセージ性の強い歌が主流の音楽シーンで、独特な世界観を持つ陽水の詩や曲が受け入れられるまでには時間がかかった。

 ブレークのきっかけは1973年にリリースしたシングル『夢の中へ』。同曲のヒットで『断絶』も連鎖的に売り上げを伸ばし、最終的に50万枚以上を売り上げた。川瀬氏が振り返る。

「何といっても、天才ですよね。声はいいし、歌もいい。最初は『カンドレマンドレ』なんて曲を作ってて、半分ふざけてんのかなみたいな雰囲気もあったけど、たくさん書くうちに独創的な視点を自分の言葉で表現できるようになって、この人は本当にすごいなって思うようになったんです」

 陽水の高く澄んだ歌声は“奇跡の歌声”と称賛され、続く3作目のアルバム『氷の世界』は日本の音楽史上で初めて売り上げ枚数が100万枚を突破する金字塔を打ち立てた。

不倫をきっぱり否定

 一躍時代の寵児となった陽水は拓郎と並んで「フォーク界のプリンス」と呼ばれるようになる。1974年には一般女性と結婚し、翌年には拓郎や泉谷と共にフォーライフ・レコードを設立するなど公私共に順風満帆だった。事態が暗転するのは1976年。わずか2年で結婚生活が破綻し、離婚が成立。さらに翌年9月には警視庁に大麻取締法違反で逮捕されたのだ。

「友人から10万円で譲り受けた20本の大麻を自宅でひとりで吸っていた疑いで現行犯逮捕されました。判決は懲役8か月、執行猶予2年。陽水さんは抗弁することもなく判決に素直に従い、マスコミには沈黙を貫きました。事件から10か月後に再起を賭けて発表したアルバムのタイトル『ホワイト』には、白紙からの再出発という意味が込められていたといいます」(ベテランジャーナリスト)

 当時、朝日新聞記者だった故・筑紫哲也さんが「マリファナは日本では違法であるが、井上陽水の歌まで否定する一部の意見は間違っている」と発言したことも、陽水の早期復帰を後押しした。事件後も陽水神話は色あせることなく、逮捕された年の長者番付でも推定年収約1億円で歌手部門のトップにつけている。

 現在の妻・石川セリ(70才)と再婚したのは1978年8月。円熟期を迎えた陽水はその後も音楽史に残る数々のヒット曲を世に送り続けた。

「1984年には元バックバンドの安全地帯に歌詞を提供した『恋の予感』と、中森明菜さんのために作った『飾りじゃないのよ涙は』が大ヒット。自身の『いっそセレナーデ』と3曲並んで歌番組のヒットチャートを独占し、『氷の世界』がミリオンを達成した時代に次ぐ“第二次陽水ブーム”と称されました」(芸能リポーター)

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