国内

「田中角栄が示した『日本列島改造論』で国民に希望の未来を」元総理秘書官が指摘する“角栄的発想”の必要性

田中内閣の総理元秘書官を務めた小長啓一氏(写真/共同通信社)

田中内閣の総理元秘書官を務めた小長啓一氏(写真/共同通信社)

 国民の胸に刺さる言葉の力を持ち、官僚を説き伏せて突き進む決断力と実行力を併せ持っていた――。没後30年となった今太閣・田中角栄。毀誉褒貶はあれど、もしこの時代に「角さん」がいれば、現代の苦境をどう乗り越えただろうか。田中内閣の総理元秘書官を務め、『日本列島改造論』の執筆者の一人でもある小長啓一・元通産事務次官が語った。

 * * *

 総理の器、リーダーの資格には、構想力、決断力、実行力、そして人間力の4つの力が必要だと考えていますが、田中さんはそれらを十分に備えた方でした。それを示すのが「日本列島改造論」です。

 本にまとめるにあたって、私を含めて15人のゴーストライターがチームを組み、最初に田中さんからレクチャーを受けた。田中さんは1日8時間で4日間、全く資料なしでしゃべるんです。頭の中には、これからの日本の国づくりをどうするかが完全に整理されていた。それは通産大臣になる前の25年間、国土開発を中心にした田中さんの政治家としての努力の結晶でした。

 列島改造論には、いろいろ新しいアイデアが入っていました。たとえば地方に25万人都市をつくって東京一極集中を変えていくとか、過疎を解消するために工場誘致を都市の沿岸部だけでなく、地方の内陸部に行って就業機会を新しくつくる。産業再配置で出稼ぎに行かなくても通勤できるようにしようとか。

 従来の国土開発において生じていた人口の都市集中や地方との所得格差、出稼ぎによる家族の分断、公害といった問題に対する田中さんの処方せんが列島改造論でした。ベースにあったのは、日本列島どこに住んでも一定以上の生活ができるようにする「一億総中流」の思想だと思いますね。

〈角栄の列島改造論は実行に移され、新幹線、高速道路、港湾などの物流ネットワークの整備が進み、地方に大規模工業団地が次々に建設された。半導体工場が集中的に誘致された九州は「シリコンアイランド」と呼ばれ、地方の所得も大きく伸びて、一億総中流社会が実現したかに思われた〉

 公共事業に資金が相当投入されて新幹線、道路網の整備は進みましたが、東京から地方へ人の流れが変わったかといえば、逆に「ストロー現象」でより東京集中になった。東京の人口が1400万人を超えたのはつい最近です。産業再配置もいったんは地方に工場が進出したが、1980年代後半にはグローバル化で海外移転が急加速し、産業空洞化と呼ばれる現象が起きた。

 田中さんが目指した東京一極集中を是正し、地方に活力を与えるというテーマは、今まさに日本が直面している課題でもあります。列島改造論では産業再配置という処方せんが書かれたが、それは現在も通用するものだと思います。

 そこで一つ加えたいのは外国企業の位置づけ。日本は治安がいいし、労働力の質が高く、数も多い。投資環境としては決して悪くない。現代日本では、国内企業の工場再配置だけではなく、海外の然るべき企業を日本に誘致することを含め、日本列島全体を“シリコンバレー化”する田中さん的な発想が必要でしょう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《北島康介に不倫報道》元ガルネク・千紗「アラフォーでも美ボディ」スタートさせていた“第2の人生”…最中で起きた波紋
NEWSポストセブン
音楽業界の頂点に君臨し続けるマドンナ(Instagramより)
〈やっと60代に見えたよ〉マドンナ(67)の“驚愕の激変”にファンが思わず安堵… 賛否を呼んだ“還暦越えの透け透けドレス”からの変化
NEWSポストセブン
石破茂・首相の退陣を求めているのは誰か(時事通信フォト)
自民党内で広がる“石破おろし”の陰で暗躍する旧安倍派4人衆 大臣手形をバラ撒いて多数派工作、次期政権の“入閣リスト”も流れる事態に
週刊ポスト
1999年、夏の甲子園に出場した芸人・とにかく明るい安村(公式HPより)
【私と甲子園】1999年夏出場のとにかく明るい安村 雪が降りしきる母校のグラウンドで練習に明け暮れた日々「甲子園を目指すためだけに高校に通った」 
女性セブン
クマ外傷の専門書が出版された(画像はgetty image、右は中永氏提供)
《クマは鋭い爪と強い腕力で顔をえぐる》専門家が明かすクマ被害のあまりに壮絶な医療現場「顔面中央部を上唇にかけて剥ぎ取られ、鼻がとれた状態」
NEWSポストセブン
小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
ジャーナリストの西谷格氏が新疆ウイグル自治区の様子をレポート(本人撮影)
《新疆ウイグル自治区潜入ルポ》現地の人が徹底的に避ける「強制収容所」の話題 ある女性は「夫は5年前に『学習するところ』に連れて行かれ亡くなりました」
週刊ポスト
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト