ライフ

【逆説の日本史】中国との連携がうまくいかなかった大日本帝国の「盗人にも三分の理」

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十三話「大日本帝国の確立VIII」、「常任理事国・大日本帝国 その1」をお届けする(第1405回)。

 * * *
「漁夫の利」ということわざがあり、また「鬼の居ぬ間に洗濯」ということわざもある。

 解説は不要だと思うが念のために言えば、それぞれ「《シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという『戦国策』燕策の故事から》両者が争っているのにつけ込んで、第三者が利益を横取りすることのたとえ」であり、「怖い人や気兼ねする人のいない間に、思う存分くつろぐこと」だ。また、「悪銭身につかず」ということわざもある「盗み・賭け事などで得た金銭は、むだに使われてすぐになくなってしまう」ということだ。(語義はいずれも『デジタル大辞泉』〈小学館〉より)

 一九一四年(大正3)の第一次世界大戦勃発から一九四五年(昭和20)の大日本帝国崩壊までの歴史は、ごく簡単にまとめてしまえばこの三つのことわざで要約できる。つまり、第一次世界大戦という「欧米列強の争い」に乗じて「漁夫の利」である「ドイツの中国における利権」を「横取り」したのはいいが、欧米列強という「鬼の居ぬ間に」「洗濯」つまり「中国での利権拡大」をして「くつろぐ」はずだったところを、結局その「賭け事」で得た利益は全部失ってしまったということである。

 この三つのことわざにたとえる場合、そうでは無いと考える人間が一番引っ掛かるところが、「盗み」という表現だろう。日本が中国に対してしたことは「盗み」などでは無い、という主張である。たしかに日本が、いや大日本帝国が当時の中華民国(略して中国)から得た利権は外交交渉で得たものもある。

 しかし、結果的には大日本帝国の命取りとなった「満洲国建国」は、やはり中国領の奪取、別の言葉で言えば、侵略だろう。この点は現在の中華人民共和国の主張は正しい。ただし、あれを「偽満洲国」と呼ぶなら、現在の中華人民共和国「チベット自治区」は「偽自治区」であろう、本来あれは独立国家であったものを中共政権が侵略した結果そうなったのだから、そんなことを言っている限り現在の中華人民共和国は過去の日本の行為を非難する資格は無い。

 ここで韓国から、日韓併合は侵略であり植民地支配ではないかという主張があるかもしれないので一言しておく。あれは植民地支配では無い。少なくとも、イギリス型の植民地支配では無い。イギリスはインドを徹底的に収奪した。初等教育はともかく高等教育は基本的にインド人に受けさせなかったし、国軍の幹部にも絶対インド人は採用しなかった。収奪されている人間に武器を持たせたら危険だからである。

 しかし日本は、李栄薫元ソウル大学教授がベストセラー『反日種族主義』でデータに基づき実証的に証明したように収奪などしていないし、それどころか朝鮮半島近代化の基礎となる多大のインフラ投資をしている。鉄道や発電所や工場や上下水道だけで無く、学校などの知的インフラの整備も行なっている。

 現代の韓国で「第一の国賊」とされている李完用の「大罪」は、「祖国を日本に売り渡した」ことだ。では、あの時代李完用の取った手段以外に大韓帝国を近代化する方法はあったのか? 皇帝一家は朱子学の権化で、西洋近代化も四民平等(士農工商の撤廃)も男女平等も認めない。それを推進しようとした金玉均は極刑に処せられた。

 国のトップが絶対近代化、民主化を認めようとしないとき、それを実現する一番簡単な方法はフランス革命のように国王夫妻を殺害し王家を滅亡させることだ。しかし李完用はそれをせず、しかも見事に祖国を近代化へ導いた。もう一度言うが、国の近代化、民主化に絶対反対の主家を滅さずにそれを成し遂げるには、李完用の取った方法以外考えられない。

関連記事

トピックス

海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
政治資金の使途について藤田文武共同代表はどう答えるか(時事通信)
《政治資金で使われた赤坂キャバクラは新規60分4000円》維新・奥下議員が訪れたリーズナブルなキャバの店内は…? 「モダンな内装に個室もなく…」 コロナ5類引き下げ前のタイミング
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
神奈川県藤沢市宮原地区にモスクが建設されることが判明した(左の写真はサンプルです)
《イスラム教モスク建設で大騒動》荒れる神奈川県藤沢市 SNSでは「土葬もされる」と虚偽情報も拡散 市議会には多くの反対陳情が
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
いまだ“会食ゼロ”だという
「働いて働いて…」を地で行く高市早苗首相、首相就任後の生活は“寝ない”“食べない”“電話出ない” 食事や睡眠を削って猛勉強、激ヤセぶりに周囲は心配
女性セブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
逮捕された村上迦楼羅容疑者(時事通信フォト)
《闇バイト強盗事件・指示役の“素顔”》「不動産で儲かった」湾岸タワマンに住み、地下アイドルの推し活で浪費…“金髪巻き髪ギャル”に夢中
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年12月3日、撮影/JMPA)
《曾祖父母へご報告》グレーのロングドレスで参拝された愛子さま クローバーリーフカラー&Aラインシルエットのジャケットでフェミニンさも
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《約200枚の写真が一斉に》米・エプスタイン事件、未成年少女ら人身売買の“現場資料”を下院監視委員会が公開 「顧客リスト」開示に向けて前進か
NEWSポストセブン
指示役として逮捕された村上迦楼羅容疑者
「腹を蹴れ」「指を折れ」闇バイト主犯格逮捕で明るみに…首都圏18連続強盗事件の“恐怖の犯行実態”〈一回で儲かる仕事 あります〉TikTokフォロワー5万人の“20代主犯格”も
NEWSポストセブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《広瀬すずのぴったりレギンスも話題に》「アスレジャー」ファッション 世界的に流行でも「不適切」「不快感」とネガティブな反応をする人たちの心理
NEWSポストセブン