卵巣がんを調べる腫瘍マーカー「CA125」も同様だ。室井さんが言う。
「卵巣がんの腫瘍マーカーは不正出血などの症状がある人以外は受けるべきではありません。検査によって早期発見することで、死亡率が低下するというデータはなく、むしろ増加するという研究結果すらある。偽陽性による過剰検査やそれによる有害事象の発生などが原因だと考えられますが、いずれにせよ検査には慎重になるべきでしょう」
尿一滴で「線虫」がにおいをかぎわけ、がんの有無を判断する「線虫がん検査」も、専門学会が「精度に懸念がある」としている。
「線虫がん検査は登場したばかりで歴史が浅く、根拠に乏しい。偽陽性が出る可能性が高いのに、医療機関で精密検査を受ければ体を傷つけるリスクがあるうえ、精神的にもダメージを受けます」(森さん)
人間ドックだけでなく自治体が実施するがん検診の中にも、気をつけるべきものがある。ナビタスクリニック川崎院長で内科医の谷本哲也さんは「胃部X線検査(バリウム検査)は欠点が多い」と話す。
「胃の形が変化するタイプのがんでないと見つからないため、早期発見につながりにくい。加えて、バリウムが体外に排出されずに腸に滞留すると、腸閉塞や腸穿孔を起こすリスクもあります。受けるなら、同時に食道がんも調べられる胃の内視鏡検査がいい」(谷本さん・以下同)
「便潜血検査」は世界的に推奨されているが、結果を信用しすぎるのはNGだと谷本さんは続ける。
「費用が数百円と安く、痛みもない検査なので、受けた方がいいが、早期がんは見つけにくい。胃や腸の病変は、内視鏡で見た方が確実性が高く、病変があった場合にその場で細胞を採って調べることができる。特に女性は大腸がんが多いので、40才を過ぎたら便潜血に加えて、大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします」
ただし、必ずしも毎年のように内視鏡検査を受ける必要はない。
「胃がんを発症する原因のほとんどが『ピロリ菌』です。胃炎などの疾患がありピロリ菌検査が陽性の場合は、除菌をし2年前後に1回程度は受けた方がいい。しかしピロリ菌が陰性で症状も胃の疾患もなければ、定期検査までは不要でしょう。大腸内視鏡も一度検査して腸の状態がきれいであれば、5年に1回くらいでも大丈夫です」
肺がん検診のリスクを懸念するのは岡田さんだ。
「最近ではX線検査の代わりに胸部CT検査が増えていますが、低線量方式でも被ばく量は胸部X線の数十倍から百数十倍もあるうえ、治療の必要がない小さながんを見つけることもある。そもそもどのがん検診にも、受けると必ず寿命が延びると証明できた信頼度の高い論文はない。すべてが過剰医療につながり、不要な手術で最悪の場合、命を落とすリスクがあることを知ってほしい」