「悪意をもった行為ではない」
和解に際しては、有愛さんへのパワハラの当事者とされる10人のうち6人から、遺族側に謝罪の手紙が送られたという。
「遺族側の代理人である弁護士は会見を開き、この日には間に合わなかったが、手紙での謝罪の意思を示している上級生がもう1人いると明かしました。
これはパワハラの当事者7人が謝罪したともとれるが、裏を返せば3人は手紙での謝罪を拒否したとも言えます」(別の社会部記者)
実際、宙組の上級生の中には、最後まで自身の言動は“指導”であり、断じてパワハラではないと主張する者もいた。
「謝罪を拒否した3人の内訳は、幹部上級生2人と上級生1人というところまでは会見で明かされました。
3人の中には生前の有愛さんを『マインドが足りない』『下級生の失敗は、すべてあんたのせいや』と激しく叱責していた幹部らが含まれるというのが、もっぱらの評判です」(前出・別の社会部記者)
一方で、パワハラを頑なに認めない上級生たちの心情を解説するのは、ある宝塚歌劇団のOGだ。
「長い伝統を誇る宝塚には厳しい上下関係が存在しますが、組ごとに雰囲気は違う。有愛さんが所属していた宙組が、下級生に対し必要以上に厳しく指導するようになったのは、実はここ5~6年のことなんです。
宙組の気質が変化した背景には、あるOGの存在があります。彼女は人気と実力を兼ね揃えたスターでしたが、音楽学校時代から下級生への当たりが厳しいことで知られていました」
そんな先輩のもとで鍛えられてきたのが、現在の宙組幹部たちだ。
「彼女たちからしてみれば、自分たちも経験してきた“当然の指導”が、有愛さんの死をきっかけにパワハラと認定された。これまで指導だと信じてきたことをパワハラだと受け入れるのは、自らの努力や経験を否定することにもつながり、耐えがたいものがあるのでしょう。それゆえに、最後までパワハラを否定し、『私は謝らない』と遺族への謝罪も拒否しているのです」(前出・宝塚OG)
組織として有愛さんへのパワハラを認めた劇団だが、個人の処分はしない方針だ。
「この点について、遺族側の弁護士は『個々のパワハラ行為の責任を減ずる側面もある』と語り、強い懸念を示していました。
一方で、阪急阪神ホールディングスの社長は会見で『悪意をもった行為ではないが、いまの世の中ではパワハラにあたる』という趣旨の話をするなど、和解しても両者のパワハラに対する認識にはいまだ乖離があることがうかがえました」(前出・社会部記者)
約半年の協議の末、事件にひとつの区切りをつけた有愛さんの母は、「訴え」と題したコメントを発表した。
《今更ながら、2年半前にヘアアイロンによる火傷があった時に泣き寝入りせず、声を上げれば良かった、昨年2月に劇団がヘアアイロンによる火傷の事実を「事実無根」と発表した時に抗議すれば良かったと、後悔してもしきれません。(中略)娘は決して弱かったわけでも、我慢が足りなかったわけでもありません。過酷な労働環境と、酷いパワハラの中でも、全力で、笑顔で舞台に立っていました。強く生きていました。私たちはそんな娘を誇りに思っています》
遺族にとって和解は免罪符ではない。宝塚歌劇団が組織風土の改善に本気で取り組むのかどうか、遺族の厳しい視線は注がれ続ける。
※女性セブン2024年4月18日号