落語家への転身を振り返る(撮影/小倉雄一郎)
「どうしても志の輔師匠に稽古をつけてもらいたい」
──それで桂枝雀さんの落語を聴いたのがきっかけで、この世界にどっぷり浸かってしまったわけですよね。
方正:こんな世界があるんや、と。僕ね、(立川)志の輔師匠に稽古をつけてもらったことがあるんです。僕は枝雀師匠から入って、それからいろんな人の落語を聴きました。そして、志の輔師匠のところで、ずぼっと落ちてしまったんです。志の輔師匠の噺は全部聞きました。その中に『鼠穴』という噺があるんですけど、それが本当におもしろくて。クソおもろいな、ですわ。人間クサさが出ていて。それで、どうしても志の輔師匠に稽古をつけていただきたくて、噺家になって3年目のときにお願いしたんです。
──志の輔さんと言えば、今、落語界でいちばんの大物と言ってもいいかもしれません。
方正:ですよね。だから3年目の噺家が稽古をつけてもらうなんて、考えられないことなんです。今にして思えば。でも、その頃の僕はそんなことも知らなかった。ある落語の会で志の輔師匠がおられて、キレられたらしゃあないと思って、言ったんです。
──すごい度胸ですよね。
方正:ど根性です。志の輔師匠に「『鼠穴』を教えてください」と頭をさげた。そうしたら「僕がつけるの?」って。はいと言ったら、『鼠穴』はすごい大ネタなので、「『ねずみ』だよね?」って何度も聞き返されましたね。『ねずみ』っていうネタもあるんです。そのたびに「いや、『鼠穴』です」と返して。『鼠穴』は少なくとも10年以上のキャリアのある噺家がやるような噺なんです。だから、志の輔師匠も「えーっ……」てなってたんですけど、最終的にわかりましたとなって。
後日、志の輔師匠の独演会に呼んでいただいて、「今日、『鼠穴』をやるから袖で勉強しておいてね」って言われたんです。で、打ち上げにも呼んでいただいて、そこで「何で今さら落語なの?」って聞かれたんです。
