アマ無敵を誇ったキューバの主軸・リナレス。日本球界入りは大きな話題となった(時事通信フォト)

アマ無敵を誇ったキューバの主軸・リナレス。日本球界入りは大きな話題となった(時事通信フォト)

「キューバ・ルート」の開拓

 この流れ、何かに似ている。

 1980年代までは隆盛を極めた西側先進国の経済だが、その発展の主役は、徐々にだが先進国から新興国、発展途上国へと向かっていった。あの流れだ。

 80年代末には経済的台頭が著しいアジアの国・地域として韓国、台湾、香港、シンガポールが注目を浴びた。いわゆる「NIEs(新興工業経済地域)」の台頭だ。これら「アジア四小竜」と呼ばれた韓国と台湾から、ドラゴンズは助っ人を連れてきた。「竜から竜へ」である。

 その先見の明には驚かされるが、中日のこうした動きは、白人コンプレックスから抜け出せず、メジャーリーガーを大枚はたいて連れてくるしか能がなかった金満球団に、カネをばらまかなくても「補強はできる」ことを示したのである。この教えは尊い。

 ドラゴンズ、賢い。炯眼!

 ドラ版グローバリゼーションの仕上げは、キューバ・ルートだ。

 とにかくキューバの英雄、リナレス(オマール・リナレス・イスキエルド)選手の存在が大きい。どうしてドラゴンズとこれほど太い関係を築いてくれたのか。一度ゆっくり聞いてみたいものだ。だって、とんでもない英雄なんだから。

 2024年に中日を去ったダヤン・ビシエド選手は、凄く頼りになる助っ人というだけでなく、ビシエドのホームランには特別な迫力があった。横浜スタジアムで特大ホームランを目にした日は、「どえりゃーもん見せてもらったてー」と拝みたくなった。

 ライデル・マルティネス投手の活躍は言うまでもない。ライデルが来てくれるなら、たいていの球団は大金を積む。実際、巨人が札束攻勢で獲得した。だが、それも仕方ないことだ。

 しみったれた話は横に置いて、豪快な話をしよう。ビシエドの亡命劇だ。筏に乗ってキューバを離れたという。

 私はデビュー作『龍の伝人たち』(小学館)で、文化大革命期の中国で政治的迫害を恐れて、5時間、6時間と泳ぎ続けて香港に逃げた人々を取材した。こうしたたくましい人々と出会うにつれ、自分がつくづく温室の中でしか生きてこなかったことを痛感させられる。この世に生まれて、本当にこの世界を見たと言えるのかと自問してしまう。

 そんななかでも、ビシエドの伝説は格別な味わいがある。

 ロビンソン・クルーソーほどじゃないが、死線を潜っている。こんなド級の冒険譚を引っ提げて来日した助っ人なんて他にいない。ちょっとばかし対抗できるとすれば、ヤクルトや阪神にいたラリー・パリッシュ選手ぐらいだろうか。ワニを食べてたっていう話。もっとも、私だって学生時代に2か月ほど留学していたオーストラリアで2度、ワニを食べた。とくに何ということもなかった。筏で亡命した、ビシエドの圧勝だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
リモートワークや打合せに使われることもあるカラオケボックス(写真提供/イメージマート)
《警視庁記者クラブの記者がカラオケボックスで乱痴気騒ぎ》個室内で「行為」に及ぶ人たちの実態 従業員の嘆き「珍しくない話」「注意に行くことになってるけど、仕事とはいえ嫌。逆ギレされることもある」 
NEWSポストセブン
「最長片道切符の旅」を達成した伊藤桃さん
「西国分寺から立川…2駅の移動に7時間半」11000kmを“一筆書き”した鉄旅タレント・伊藤桃が語る「過酷すぎるルート」と「撮り鉄」への本音
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱親方と白鵬氏
旧宮城野部屋力士の一斉改名で角界に波紋 白鵬氏の「鵬」が弟子たちの四股名から消え、「部屋再興がなくなった」「再興できても炎鵬がゼロからのスタートか」の声
NEWSポストセブン
環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(22)
《不敵な笑みでテロ組織のデモに参加》“環境少女グレタ・トゥンベリさん”の過激化が止まらずイギリスで逮捕「イスラエルに拿捕され、ギリシャに強制送還されたことも」
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン