交際中だったベーシストの永田雄樹氏に抱きつく中山美穂さん(2020年3月、撮影)
 

交際中だったベーシストの永田雄樹氏に抱きつく中山美穂さん(2020年3月、撮影)

〈寄り添ってあげられる歌を歌っていきたい〉

 なぜ、中山美穂は金字塔を打ち立てられたのか。主に、3つの理由が考えられる。1つ目は『すてきな片想い』で恋に臆病なOL、『逢いたい時にあなたはいない…』で遠距離恋愛に悩む看護婦を演じ、「月9」最大の視聴者である20歳から34歳までの女性(F1層)の共感を得たことだ。2つ目は、ドラマの内容と主題歌の歌詞が合致しており、相乗効果が生まれた点である。

 そして、3つ目には「思いやりの心」が挙げられる。月9ドラマ『おいしい関係』と主題歌『未来へのプレゼント』がヒットしていた頃、こう話している。

〈寄り添ってあげられる歌を歌っていきたい。私が歌ったことだけで、泣いていた子の涙がフッと止まったり、励まされたり、そんなことが起こってくれればそれだけでいいんだよね。“私が”じゃなくて、そういうことを地道にやっていければいいんだと思うようになったんだ〉(1997年1月号/月刊カドカワ)

 幼少期に両親が離婚し、寂しい思いを抱えた体験が人への優しさにつながっていた。彼女には自我の発露ではなく、受け手への心配りがあった。

〈思いは必ず伝わる……すごく信じてる。そして歌には絶対に出るものだと思ってる。それは心の声だから。たったひと言歌い出しただけで、全部伝わることがある。それを目指したいの〉(前掲・月刊カドカワ)

 この信念が世間に行き渡ったのだ。だからこそ、中山美穂の作品は高視聴率を記録し、ヒットソングとなった。逝去しても、歌やドラマは消えない。これからは受け手が、彼女の周りに永遠の花を咲かせる番である。

■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では膨大な資料の分析や取材を通じ、1980年代から21世紀に至るまでの芸能界の変容を浮き彫りにした。

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