そして李承晩はアメリカの後ろ盾をいいことに、ちょうどいまのロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領のように韓国大統領ポストに徹底的に居座ることを決意し、再三にわたり憲法改正を繰り返して一九六〇年には極端な不正選挙を実施して四選を勝ち取った。だが、さすがに国民を怒らせ、決起した学生の「四月革命」により大統領に就任すること無くアメリカに亡命し、一九六五年にハワイで死去した。つまり、韓国人にとっても李承晩という男は追放すべき大悪人であったのだ。

 そしてその大悪人であり天才でもあった李承晩が、戦後日本に仕掛けた最大の反日行動が「李承晩ライン」の設置および、それに伴う日本領竹島(韓国は勝手に「独島」と呼んでいる)の占領であった。いまや多くの日本人が忘れてしまっているが、「李承晩ライン」とはいったいなんだったのか?

〈李承晩ライン りしょうばんらいん
一九五二年(昭和二十七)一月十八日、韓国大統領李承晩が設定した一定区域の海洋に対する主権宣言。その区域は東側は(咸)鏡北道慶興郡牛岩嶺頂上、北緯四二度一五分・東経一三〇度四五分、北緯三八度・東経一三二度五〇分、北緯三五度・東経一三〇度、北緯三四度四〇分・東経一二九度一〇分、北緯三二度・東経一二七度を結んだ線、南側は北緯三二度の線、西側は北緯三二度・東経一二四度、北緯三九度四五分・東経一二四度、平安北道竜川郡薪島列島馬鞍島西端、朝鮮・中国国境西端を結んだ線で区画される朝鮮半島周辺の広大な水域である。李大統領はこの水域内のあらゆる自然資源・鉱物・水産物に対し韓国の国家主権を保存し行使することを宣言した。この宣言の目的は約三ヵ月後(四月二十八日)サンフランシスコ講和条約が発効しマッカーサーラインが撤廃され日本人の漁業が朝鮮近海に進出するのを防ぐためであった。翌五三年十二月十二日韓国は漁業資源保護法を実施し上記水域内の漁業を許可制とし違反者を処罰することとし、日本人漁業者・漁船を大量に拿捕するに至った。日本は国際法違反として厳重な抗議を韓国に申し入れた。以後本問題は日韓間の重要懸案となり交渉が続いたが、一九六五年六月二十二日日韓基本条約とともに漁業協定が成立し李承晩ラインは事実上廃止されるに至った。〉
(『国史大辞典』吉川弘文館刊 項目執筆者臼井勝美)

 これまで私は、たとえば「日本が国際社会に人類初の人種差別撤廃を提案したこと」「尼港事件の真実」「日本が『あの戦争』を大東亜戦争と呼んだ理由」などについて、いわゆる左翼歴史学者がさまざまなテクニックを使って真相をごまかそうとしていた事実を、いろいろな形で暴いてきたつもりだ。

 あえて彼らの教科書や百科事典の記述を引用するのも、読者に直接そうした実例に触れてもらうことによって、私の主張に嘘がないことを認めてもらうためである。今回、日本歴史学界の標準的な学説を収録していると定評のある『国史大辞典』の「李承晩ライン」の項目を煩をいとわずに全文引用したのも、左翼歴史学者の陰謀を白日の下に暴くためだ。

 それにしても、この『国史大辞典』の「李承晩ライン」の説明は、きわめて悪質であると言えるだろう。ここまで「ひどい」例はなかなか無い。だが、一見すると公平・客観的な記述に見えるのが、彼らの巧みなところである。では、どこが「ひどい」のか? もっとも肝心なことが二つ排除されていることだ。もちろん、ケアレスミスとは断じて考えられない。故意にやった、のである。

(第1470回に続く)

【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『真・日本の歴史』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。

※週刊ポスト2025年10月31日号

関連記事

トピックス

3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(HP/時事通信フォト)
「私嫌われてる?」3年間離婚を隠し通した元アイドルの穴井夕子、破局後も元夫のプロゴルファーとの“円満”をアピールし続けた理由
NEWSポストセブン
小野田紀美・参議院議員(HPより)
《片山さつきおそろスーツ入閣》「金もリアルな男にも興味なし」“2次元”愛する小野田紀美経済安保相の“数少ない落とし穴”とは「推しはアンジェリークのオスカー」
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン
記者会見を終え、財務省の個人向け国債のイメージキャラクター「個子ちゃん」の人形を手に撮影に応じる片山さつき財務相(時事通信フォト)
《つけまも愛用》「アンチエイジングは政治家のポリシー」と語る片山さつき財務大臣はなぜ数十年も「聖子ちゃんカット」を続けるのか 臨床心理士が指摘する政治家としてのデメリット
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(時事通信フォト)
「濡れ髪にタオルを巻いて…」森下千里氏が新人候補時代に披露した“入浴施設ですっぴん!”の衝撃【環境大臣政務官に就任】
NEWSポストセブン
aespaのジゼルが着用したドレスに批判が殺到した(時事通信フォト)
aespa・ジゼルの“チラ見え黒ドレス”に「不適切なのでは?」の声が集まる 韓国・乳がん啓発のイベント主催者が“チャリティ装ったセレブパーティー”批判受け謝罪
NEWSポストセブン
高橋藍の帰国を待ち侘びた人は多い(左は共同通信、右は河北のインスタグラムより)
《イタリアから帰ってこなければ…》高橋藍の“帰国直後”にセクシー女優・河北彩伽が予告していた「バレープレイ動画」、uka.との「本命交際」報道も
NEWSポストセブン
歓喜の美酒に酔った真美子さんと大谷
《帰りは妻の運転で》大谷翔平、歴史に名を刻んだリーグ優勝の夜 夫人会メンバーがVIPルームでシャンパングラスを傾ける中、真美子さんは「運転があるので」と飲まず 
女性セブン
安達祐実と元夫でカメラマンの桑島智輝氏
《ばっちりメイクで元夫のカメラマンと…》安達祐実が新恋人とのデート前日に訪れた「2人きりのランチ」“ビジュ爆デニムコーデ”の親密距離感
NEWSポストセブン
イベントの“ドタキャン”が続いている米倉涼子
「押収されたブツを指さして撮影に応じ…」「ゲッソリと痩せて取り調べに通う日々」米倉涼子に“マトリがガサ入れ”報道、ドタキャン連発「空白の2か月」の真相
NEWSポストセブン
元従業員が、ガールズバーの”独特ルール”を明かした(左・飲食店紹介サイトより)
《大きい瞳で上目遣い…ガルバ写真入手》「『ブスでなにもできないくせに』と…」“美人ガルバ店員”田野和彩容疑者(21)の“陰湿イジメ”と”オラオラ営業
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《安達祐実の新恋人》「半同棲カレ」はNHKの敏腕プロデューサー「ノリに乗ってる茶髪クリエイターの一人」関係者が明かした“出会いのきっかけ”
NEWSポストセブン