歌満くら 第八図 桜狩(C)Victoria and Albert Museum,London /amanaimages
いよいよ最終回が近づくNHK大河ドラマ『べらぼう』。主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)とともに物語終盤のキーマンとなっているのが染谷将太演じる浮世絵師の喜多川歌麿だ。
『べらぼう』の劇中では、蔦重のもとに居候していた少年が失踪し、再会後に絵師・歌麿として長く蔦重を支える姿が描かれる。2人は一時決別するものの、ドラマの終盤では蔦重たっての願いでヨリを戻し、歌麿が江戸の絵師たちを指揮して「東洲斎写楽」の役者絵を完成させる──。
なんともドラマチックな展開だが、史実における歌麿の人物像について、浮世絵師に精通する歴史評論家の永井義男氏はこう語る。
「宝暦3年(1753)江戸生まれとされていますが、出生地や家柄などについては諸説あります。幼少期から狩野派の町絵師・鳥山石燕の門人となり、石燕も歌麿の才を見抜いていて気にかけていたようですが、20代で自立。独立不羇というか反骨精神が強い人物で、自分の才能に相当の自信を持っていたのではないでしょうか」(永井氏。以下「 」内は同じ)
名門・狩野派を飛び出して孤立無援となった歌麿は、洒落本や黄表紙の挿絵など、いまでいうイラストレーターのような仕事で食いつないでいた。
「大きな転機となったのが、3歳年上の蔦重との出会いでした。1770年代末からタッグを組み、蔦重の出版事業の拡大とともに、歌麿自身も才能を開花させていきました」
歌麿は蔦重の求めに応じて『婦人相學十躰・浮気之相』をはじめとする数多の美人画などを手がけたが、『べらぼう』では一切触れられていない重要な作品も残している。それが春画である。
「蔦重はさまざまな絵師の春画を出版しており、なかでも歌麿は大人気でした。とくに名高いのが『歌満くら』『願ひの糸ぐち』『絵本小町引』です。
歌麿の春画が当時人気となった理由は、絵としての美しさとともに、性的に興奮させる描写力があったからです。いわば高い芸術性と“官能性”を兼ね備えていました。遊女だけでなく、市井の町娘、人妻なども積極的に描いた。親しみやすいエロティシズムを生み出しました」
