このとき、袁世凱の腹心である三人の優秀な軍人が鎮圧に活躍した。袁世凱の軍は李鴻章が築いた北洋軍閥を継承・発展させたものなので、この三人は「北洋の三傑」と呼ばれた。段祺瑞、馮国璋、王士珍の三人である。

 ここで、あらためて彼らの略歴を紹介しよう。

〈段祺瑞 だん-きずい 1865-1936
中国の軍人、政治家。
同治4年2月9日生まれ。北洋軍閥安徽派の首領。袁世凱のもとで中華民国陸軍総長となる。袁の死後、国務総理をつとめ、西原借款などの援助をうけ親日政策をとる。1920年安直戦争に敗れ、天津にうつる。1924年張作霖(ちょう?さくりん)と馮玉祥(ふう?ぎょくしょう)に擁立され、臨時執政となるが、1926年両派の対立で辞職。1936年11月2日死去。72歳。安徽省出身。字(あざな)は芝泉。

馮国璋 ふう-こくしょう 1859-1919
中国の軍人、政治家。
咸豊8年12月4日生まれ。李鴻章の淮(わい)軍にはいり、北洋武備学堂の1期生となる。日清戦争後、軍事随員として来日。帰国後は袁世凱にしたがい、辛亥革命で革命軍を攻撃。袁の死後、直隷派の首領となるが失脚した。1919年12月28日死去。62歳。河北省出身。字(あざな)は華甫(かほ)。姓は「ひょう」ともよむ。
(いずれも『日本人名大辞典』講談社刊)

おうしちん【王士珍】
Wang Shizhen 字:聘卿 号:冠儒
1861[咸豊11]~1930.7.1
中国近代の軍人、政治家。
直隷(現、河北)正定の人。天津武備学堂に入学 [1885:光緒11]。日清戦争後、袁世凱の招聘に応じ、天津小站で新建陸軍の練兵に従事 [96]。以後、北洋新軍の中核を担い、段祺瑞、馮国璋とともに〈北洋三傑〉と称される。中華民国成立後、臨時大総統袁世凱の要請で北京に入り、陸海軍大元帥統率弁事処座弁 [1914]、陸軍総長 [15]、参謀総長 [16]、国務院総理 [17] などを歴任。北京政府が混乱すると、京師臨時治安維持会会長に推挙され [26、28]、北京の治安維持に努める。
〔文献〕民国人物小伝1。〉
(『岩波 世界人名大辞典』岩波書店刊)

 この三人はほぼ同年齢で優秀な軍人だったが、王士珍が一番の保守主義者で、例の張勲復辟の際(1917年)には宣統帝の下に馳せ参じている。だが復辟が段祺瑞によって失敗に終わると、一時中央政界から引退せざるを得なくなった。しかし、その後も引っ張り出されていることでわかるように、野心の無い人間だったようだ。これは袁世凱の死後に第二代中華民国大総統を務めた黎元洪も同じで、それがゆえに「みこし」として何度も(第4代総統も務めている)引っ張り出されることになったようだ。

 だが、段祺瑞と馮国璋は違った。二人とも相手を蹴落として自分が中華民国の「傀儡ではない」総統になろうとした。そのためには外国の力を借りる必要がある。そこで段祺瑞は日本を選び、馮国璋は英米を選んだ。これも正確に言えば、中国内部の情報に詳しい日本が、もっとも軍事的実力があるのは段祺瑞であると早くから目をつけ取り込んでいたのに対し、日本に中国の利権を独占されることを恐れた英米が、段祺瑞のライバルである直隷派に目をつけた、ということらしい。つまり、この時点で中国における日本と英米との「戦争」はすでに始まっていた。だからこそ、時の寺内正毅首相は西原借款で膨大なカネをつぎ込んだのだ。

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