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勝間和代の顔真似した南伸坊「要点は5つ。メモして下さい」

【著者に訊け】『本人伝説』(南伸坊・著/文藝春秋/1050円)

『歴史上の本人』(1997年刊)から早15年。モノマネでも顔真似でもなく「本人そのもの」になり切る南伸坊氏の〈本人術〉も、今や名人芸の域に達しつつある。

「厳密に言うと『笑う写真』(1989年)の最後にふざけて撮った“似せ顔”が最初だから、もう……20年以上!? 最初は単に冗談で始めて、もちろん今も笑って欲しくてやっているんですけど、さすがに〈いったい「本人」とはなんだろうか?〉とか、多少マジメに考えるようにはなりました(笑い)」

 最新刊『本人伝説』では南氏が扮する本人(?)も一層パワーアップし、松田聖子、ダライ・ラマ14世、ヨーコ・オノ、スティーブ・ジョブズ、孫正義など〈内外のビッグ〉がズラリ。

 オバマ大統領に麻生・鳩山・菅・野田各歴代総理や橋下徹といった政治家たち。猫ひろし、マツコ・デラックス、澤穂希、由紀さおりなどの話題の人物や、水嶋ヒロ、ダルビッシュ有、石川遼といった美形まで、性別や年齢や骨格の壁(!)を超えてまんまとなりすましてしまうのだ。

 継続は力なりとは言うが、そこまで南氏を突き動かす原動力とは? そもそも本人って、いったい誰……? 南氏は語る。

「いちおう『歴史上の本人』や『本人の人々』(2003年)を出した時に後付けで理屈は付いていて、『頭で考えたことは顔に出る。顔に出たことは頭の中に影響する』というのが基本的な考え方。ただ特に本人って言葉を打ち出してからは不思議な感覚があって、例えばこの本に出てくる各本人の略歴は編集の人に書いてもらったんだけど、まァこういう本だから、ちょっとヤユする感じで書いてくれた。そしたら本人なもんだから、すいませんちょっとコレは……って抗議しちゃって(笑い)」

 本書では基本、一見開き一本人、計73名が登場し、左頁に南氏が扮した本人の顔写真、右頁にはその人になり切って語った談話(?)を掲載。その他に「枝野×野田」「前原×仙谷」「直人×伸子」「由紀夫×幸」等、対談企画も今回の目玉だ。

 巻末には実際の撮影手順も紹介され、まずは自身の顔面に本人の輪郭や陰影を描き、手作りの付鼻やカツラや衣装など、諸々の扮装を施してカメラの前に立つ。撮影は文子夫人の担当だ。

「ポーズやライティングも工夫しますが、一番のコツは早く撮ること。暑い・痒い・キツイなど、南の機嫌が本人の顔に出ても困るので(笑い)」(文子夫人)

 一方南氏は〈顔をキャンバスに似顔絵を描く〉感覚に近いと説明する。

「つまり『似顔絵を描ける』=『本人になれる』前提でやっていますね。もちろん骨格とか輪郭の点で限界はありますが、そこはご理解いただくしかない(笑い)。時々、似ても似つかない無茶っぷりが面白いという方もいるんですが、僕にはもうその面白さはわからないんですよ。たぶん本人と僕が別人だと思って見れば面白いんだろうけど、コッチは無理でもなんでも全身全霊で本人になり切ってるわけで、ウケを狙ってハズす余裕はない(笑い)」

 談話もいい。佑チャンや遼クンの健全過ぎて何かがヘンな若者気質や、内田裕也や玉置浩二ら、ぶっとびオヤジたちの意外な純真。完璧なジョブズ発言を完璧に読むと生じる可笑しみや、アラーキーこと荒木経惟の〈わかりやすくしとかないと、本当のことがわかんないのよ〉なる、誰の名言かわからない名言。山下清が語る〈しおむすび〉など、美しすぎて、ほとんど詩だ。

「あはは。山下清は全集も持ってて、僕の文章の先生ですからね。荒木さんとは昔はよく仕事をしたから、荒木さんが言いそうなことが頭ン中で響いてる。だから、誰の言葉かとかそういうことじゃなく本人の言葉です(笑い)。

 最初はパロディみたいな感じもあったんですが、20年もやるとそういう気持ちはなくて、今は自分じゃ一生言わないことを、その人になると言えるのが楽しい。例えば〈要点は5つです。メモして下さい〉なんて、勝間和代さん本人の時にしか言えません(笑い)」

●構成/橋本紀子

※週刊ポスト2012年10月26日号

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