芸能

「七つの会議」と「半沢直樹」池井戸潤原作ドラマ対決の要諦

 作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がいま、最も注目している“対決”が週末にある。奇しくも同じ原作者を持つ2つのドラマの見所を山下氏が解説する。

 * * *
 ドラマ「七つの会議」(NHK)。27日(土)は第3話へ突入します。そして、翌日の28日(日)は、今クール民放ドラマNo.1の記録を叩きだす「半沢直樹」(TBS)第3話目が待ち受けています(参院選で前週は休み)。いよいよ、真正面からのガチンコ勝負。

 2本とも、直木賞作家・池井戸潤原作の企業ドラマ。視聴者としてはなんという贅沢。嬉しい悲鳴。まるで、旬にしか味わえない個性的なご馳走を2皿続けていただくような至福感。

「七つの会議」が後発でスタートしたので、「『半沢直樹』の迫力と哀しみにどこまで迫り、伍することができるか? 注目です」と私はコラムに書きましたが、はてさて蓋を開けると……「七つの会議」の速度に満ちたスリリングな映像には目を見張りました。

 中堅電機メーカーのサラリーマン・東山紀之演じる原島万二が主人公。人事の裏に隠された会社の不祥事を知ってしまった原島は、隠蔽画策する組織の中で、もがき、苦悩する。ジャニーズ・二枚目の「東山紀之」は消えさり、ちょっとくたびれたまじめなサラリーマンがそこに立っているから不思議。役者的感性を感じます。

 出し抜こう、取り入ろう、保身に走ろうとうごめく組織の中の欲望。画面は、人間関係の危うさから生じる、ヒリヒリするような緊張感に包まれている。

 多彩なカメラワークに仕掛けがありました。モノトーンに近い、落ち着いた色彩画像を選択し、わざと逆光を使い、会議室の中に光と影をしのばせる。人間の顔半分を、シャドーで黒く埋める。斜めに切った画像。広角レンズを使った映像。望遠レンズが切り取る表情のアップ。それは、見る人に強い緊迫感を抱かせる。

 錆、鉄骨、港湾、欄干、新幹線、ビル、カーテンウォール……金属音とともにスローモーションで乱舞するネジ。ツルツル、ゴツゴツした金属や硬質な素材感を際立たせた映像は、ビジネス界の厳しさや冷たさ、組織というものの頑強さをも伝えているのです。

 背広の肩越しに切り取られた映像は、まるで視聴者が登場人物と顔をつきあわせているような肉感的イメージ。セリフだけでなく、周到なカメラワークにこのドラマの粋がある。

 一方の「半沢直樹」は、堺雅人がバブル期に入行した大手銀行員・半沢直樹を演じています。中小企業の悲哀、金融業界の矛盾、組織人の葛藤、哀しみ、怒り。かつて半沢の父は中小企業を経営し銀行から融資を打ち切られ、資金繰りに苦しみ追いつめられた過去を持つ。

 十字架を背負った銀行員の苦闘が浮き彫りになったかと思うと、理不尽な上司に対してに敢然と立ち向かう。

「やられたらやり返す。倍返しだ!」

 そのセリフを聞くたびに、胸がスカッとするのは私だけではないはず。下手したら平板になりがちな熱血サラリーマン役を、奥行きのあるキャラとして仕立てあげる堺雅人。役者としての力量に見とれてしまいます。

「七つの会議」と「半沢直樹」。

「七つの会議」からあふれ出す、人間関係の緊張感と切れ味。「半沢直樹」の不正に立ち向かう、粘り強さと正義を求める持続力。「ライバルは成長のスパイス」という格言通り。いずれも甲乙付けがたい秀逸な出来ばえ。

 それだけではありません。脇の俳優陣に目を向けると面白対決が。

「七つの会議」で異彩を放つのが吉田剛太郎。「カラマーゾフの兄弟」(フジテレビ)の父親役で、画面からはみ出すものすごい怪気炎を吐いていたあの人。今回は、競馬新聞を手にした、いわくありげな異色サラリーマン・八角民夫役。吉田さんは、そもそもシェイクスピアを得意とする根っからの舞台役者とか。新劇の型をしっかと踏まえた安定感と独特な存在感はバツ群。目が離せない。

 方や「半沢直樹」で異彩を放つのが片岡愛之助。切れ者の国税局統括官として、オネエキャラでネチネチと迫ってくる。こちらは日本の伝統芸能、歌舞伎の世界から抜擢。

 ということで、「七つの会議vs半沢直樹」「東山紀之VS堺雅人」のみならず、「リア王VS女形」のガチンコ対決も、隠れた見所です。

 拮抗するこの勝負、放送回数の多い「半沢直樹」がそのまま「倍返し」で勝ってしまうとしたら、ちょっと東山くんがかわいそう。

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