サンボ(ロシア流の格闘技)の少年選手たちと話し込んでいるうちに遅れたというのが公式の説明だが、額面通りに受け取ることはできない。プーチンの補佐官は日程管理を厳格に行なっている。首脳会談は外交日程で最優先事項になる。プーチンは外交上のプロトコール(儀典)を熟知しており、エリツィン元大統領が酩酊して首脳会談に遅刻・欠席したことがロシアの国益を毀損したという認識を強く持っている。だから、プーチンは時間に厳格だ。
首脳会談の前に事務方で、共同声明文について詰める。この過程で韓露間にかなり大きな見解の相違があり、最終的にロシアが譲歩することになったと考えられる。韓露共同声明は全体で35項目ある。筆者はその内容を精査したが、第33項の事実上の対日批判以外、韓露の対立が生じうる箇所は見あたらなかった。
今回の韓露共同声明の成立過程に関し、ロシア側はかなり厳しい情報統制を行なっており、内部情報がなかなか漏れてこない。このこと自体、「反日文言」が韓国の執拗な要請に応じて挿入されたことを示唆している。
恐らく、韓国側はこの文言が入らないならば共同声明の作成を断念するというような強硬な態度を取ったのであろう。プーチン大統領としては共同声明の合意に至らずに決裂し、韓国との関係が極度に悪化することを避けるためにこの文言を入れることにしたのだと筆者は推定している。
プーチンは、「私は合意文書作成過程を含め、今回の韓国の対応には強い不満を持っている」という認識を可視化させるために、あえて首脳会談に30分遅刻したと筆者は見ている。インテリジェンス・オフィサーであったプーチンは、意味のない行動をしない。韓国の強引な姿勢がプーチンの神経を逆撫でした。
今がプーチンの気持ちを日本に引き寄せる絶好のチャンスと思う。日本政府は、韓露共同声明に対しては、「日本が名指しされているわけではないので、反応するに及ばない」という態度を貫いた上で、アジア太平洋地域の新秩序を日露米中の4か国で形成しようと、あえて韓国を外した形でプーチンに呼びかける。力の論理の信奉者であるプーチンはこの呼びかけに乗ってくると思う。
※SAPIO2014年1月号