国内

石田衣良氏 日本にも「物乞いする子ども」が出現すると危惧

正義が恐怖の的になっている、と石田衣良氏

 NEWSポストセブンの年始恒例企画、直木賞作家石田衣良氏へのインタビューをお届けする。「2013年、世界は日本化した」。(取材・構成=フリーライター神田憲行)

 * * *
 2013年は世界中が「日本化」して苦しくなったと感じました。「日本化」というのは、低成長、デフレ、格差、国の債務の大膨張の4点セットですね。ダメになるときはみんな同じ経路をたどる。景気が悪くなって中間層が削られて下にどんどん落ちていって、権利とか頭、アイデアで稼げる人が安い労働力を使ってどんどん収益を上げていくというのが全世界の共通パターンです。

 日本ではそれを「格差社会」と呼んでいますが、去年、フランスのリヨンでブックフェスティバルに参加して驚くような経験をしました。向こうのジャーナリストにインタビューを受けていて「格差社会」と私が言うと、現地のフランス人通訳が「訳せない」というのです。「ピラミッド型社会でいいですか?」と言われました。リヨン滞在中、あちことで子どもの物乞いをみました。先進国にそんな人たちがいることも衝撃的で、もう「格差」というのはフランスでは当たり前だったんですね。アメリカや日本のようにぶ厚い中間層がいてみんな自由で、という感じではなかったんだな。

 格差社会の嫌なところは、ヘイトスピーチのような民族主義が頭をもたげてくるところです。これは生活保護バッシングと同根だと思います。

 いま日本人の中で正義感がものすごく敏感なものになっている。自分は辛い苦しい生活だけど「正義」を貫いて生きている。そこにちょっと豊かだったり不正義が社会にあると、猛烈な嫉妬心で叩きまくる。今の若者は非正規労働者が多い。バイトして生活していたら、憎しみがたまるのも仕方ないんですよね。自分たちのアガリをかすめて良い暮らしをしている奴らがいるわけですから。正社員でも若い人はどこでも死ぬほど働かされますから、彼らも怒りがたまっていく。いまいちばん怖いのは「正義」ですよ。今の社会の恐怖の的は「正義」ですね。

 自分を相対化してみる目も、なかなか育ちにくい。みのもんたさんの問題もそうなんですよ。バッシングを始めると集団で歯止めがきかない、思考停止してしまうところが私たち日本人の中にすごくあると思うんです。あの流れのなかで「そこまで叩くこともないんじゃない?」とひとりも言えない。みんな正義とか世の中の暴風雨のなかには立ち向かえない。今の日本ではある種引いた目だったり、世の中を相対化したり、時代性をもって見る目がもう機能していないなというのが、実感です。今の社会は次から次へとターゲットを探しているからそれに当たってしまうとどうしようもない。

 社会に恭順の意を示すかどうか。いまだに世間が王様なんです。なんの罪もなくて裁かれるのが日本なんです。いまだに法の前に徳がある。その徳っていうのがすごくいい加減なんだよなあ。

関連記事

トピックス

4月12日の夜・広島県府中町の水分峡森林公園で殺害された里見誠さん(Xより)
《未成年強盗殺人》殺害された “ポルシェ愛好家の52歳エリート証券マン”と“出頭した18歳女”の接点とは「(事件)当日まで都内にいた」「“重要な約束”があったとしか思えない」
NEWSポストセブン
「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
吉田鋼太郎と夫婦役を演じている浅田美代子(『あんぱん』公式HPより)
『あんぱん』くらばあ役を好演の浅田美代子、ドラマ『照子と瑠衣』W主演の風吹ジュン&夏木マリ…“カッコよくてかわいいおばあちゃん”の魅力
女性セブン
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
麻薬密売容疑でマグダレナ・サドロ被告(30)が逮捕された(「ラブ・アイランド」HPより)
ドバイ拠点・麻薬カルテルの美しすぎるブレイン“バービー”に有罪判決、総額103億円のコカイン密売事件「マトリックス作戦」の攻防《英国史上最大の麻薬事件》
NEWSポストセブン
宗教学者の島田裕巳氏(本人提供)
宗教学者・島田裕巳氏が皇位継承問題に提言「愛子天皇を“中継ぎ”として悠仁さまにつなぐ柔軟な考えも必要だ」国民の関心が高まる効果も
週刊ポスト
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン