遠出を嫌い、生活も遊びも地元で済ませたい彼らにとって〈イオンは夢の国〉だ。そこに車で乗り付け、家族で買い物や外食をする日を夢見るヤンキー層には昔ながらの〈見栄〉の文化も微かに残り、高級ワゴン車やブランドの子供服など、仲間にちょっぴり自慢できる品々や収入が憧れらしい。
「一般のさとり世代に比べるとヤンキー層は情報リテラシーが低く、地元のモールやパチスロでも結構気分次第でお金を使うんです。ましてネットショッピングが普及し、物流のインフラも整った今、あとは彼らが本当に望む商品やサービスを提供するだけ。
ところがどうしても企業の投資は人口の多い層に流れ、特に“若者の嫌消費”が指摘されて以降、企業の目はシニアに向いた。酒造メーカーなら団塊の世代の飲酒期間を1年でも延命する商品や飲み方を開発するとかね。
一方若者には社会学的な関心は持っても消費者として捉える人は少なく、実は若者論自体、失われた20年の空白がある。でも未来の消費を担うのは彼らであって、彼ら欲しがらない若者がどんな酒や車なら欲しがるのか、粘り強く観察していくことが大事なんです」
自身、常時100名程が所属する若者研のメンバーと向き合う原田氏は言う。
「情報があり過ぎることで逆に〈均質化〉する彼らを僕自身はいいとも悪いとも思わないし、そもそも今の若者が昔の若者と違うこと、かといって嫌消費だけでもないことを、本書ではどうしても伝えたかった。仮に日本の右肩が上がったとしても、彼らは自分が本当に買いたいものだけを買い、アベノミクスだ何だと浮かれないと思う。景気なんて所詮浮き沈みするものだと、それこそ彼らは悟らざるを得なかった世代なんです」
彼らの消費心をくすぐる数々の提案は本書をお読みいただくとして、私たちには見えない「今」を見せてくれた労力にまずは感謝したい。仲間思いでマイルドなイマドキのヤンキーも、なかなかどうして悪くないのだ。
【著者プロフィール】
原田曜平(はらだ・ようへい):1977年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。「CM制作志望だったんですけど、2年目から博報堂生活総合研究所に。出社拒否同然にセンター街に入り浸り、当時のギャルが“気遣い”を大事にすることに気づいて以来、若者研究一筋です」。現在博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大学非常勤講師。著書共著に『10代のぜんぶ』『中国新人類』『近頃の若者はなぜダメなのか』等。167cm、74kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年3月21日号